公正証書遺言の作成方法/流れ・費用・必要書類と遺言書の種類別一覧

更新日

本記事の内容は、原則、記事執筆日(2023年5月2日)時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。
公正証書遺言の作成方法

遺言書には、主に自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種類があり、それぞれ作成方法、保管方法、相続発生後の手続きなどが異なっています。

遺言の内容に合わせてどの種類の遺言書にするのかを選びますが、そのためにはそれぞれの遺言書の特徴を理解しておく必要があります。

この記事では遺言書の中でも特に公正証書遺言の特徴をほかの遺言書と比較しながら見ていくことで、どのような人に公正証書遺言が向いているのか、メリットとデメリット、手続きに必要な書類や費用について、解説します。

公正証書遺言が向いているケース

まず、次の項目のうち、2つ以上のチェックマークが入る人は、公正証書遺言で遺言書を作成するメリットが多くなりそうです。

公正証書遺言が向いているケース

  • 形式や内容の不備が原因で無効になるのを防ぎたい
  • 遺言書に書きたいことが多く、手書きでは大変だ
  • 遺言書の作成に関する争いが起こるのを防ぎたい(意思能力の有無、強制的に書かされたなど)
  • 遺言書に書かれた内容の意味の取り違いなどで争いが起こらないようにしたい
  • 遺言書が発見されず、無駄になるのを防ぎたい
  • 遺言書が破棄されたり、改ざんや偽造されるのを防ぎたい
  • 遺言書が災害などで紛失するのを防ぎたい
  • 遺言書に書かれた内容を秘密にしておきたい
  • 検認などの手続きで煩わされず、すぐに遺産相続を開始できるようにしておきたい
  • 病気などの事情で遺言書を手書きすることができない

公正証書遺言の作成方法

公正証書遺言の作成方法

公正証書遺言は、公証役場で証人2人以上の立ち会いのもと、遺言者が公証人に遺言事項を口述して作成する遺言書です。その作成手順は次の通りです。

公正証書遺言作成の流れ

  1. 民間の専門家(司法書士や行政書士等)に相談し、遺言書の文案を作成する
  2. 遺言者が口述する遺言事項を公証人が筆記し、遺言証書を作成する
  3. 筆記した遺言書を公証人が遺言者と証人全員に向かって読みあげる
  4. 遺言者と証人は、筆記が正確かどうかを確認の上、署名・押印する
  5. 最後に公証人は証書を作成した手順を附記して署名・押印し、その原本を公証役場で保管する

*遺言者が持ち帰ることができるのは、正本と謄本のみです。

公正証書遺言のメリット

公正証書遺言のメリット

遺言者が自筆で簡単に作成できる自筆証書遺言と比べて、公正証書遺言は「手間暇がかかる」「公証人手数料や必要書類の手配料、専門家(司法書士や行政書士等)への報酬などの費用がかかる」というデメリットがあります。しかし、公正証書遺言はある種の人にとって、これらのデメリットを上まわるメリットがあります。

①遺言書が無効になるリスクを抑えられる

経験豊富な法律の専門家、公証人が作成する

公証人は、裁判官、検察官、法務局長など、原則として30年以上の実務経験を持つ法律関係者の中から選ばれ、法務大臣が任命する公務員です。

公証人は法務局、または地方法務局に所属し、全国各地にある公証役場で公正証書遺言の作成のほか、公正証書の作成、私文書の認証(署名や押印などの真正を証明すること)などの業務を行っています。

遺言者にとって最善と思われる遺言書を作成する

「相続トラブルは避けたいので遺言書を作っておきたいが、どんな風に書けばトラブルを未然に防げるのかわからない」とか、「どのように財産を処分したいか、具体的な方法が思い浮かばない」といった人は、まずは司法書士や行政書士等の民間の専門家に相談に行きましょう。

親族関係や財産の状況などを丁寧に調査し、遺言者にとって最善と思われる内容の原案を作成してくれます。遺言書の内容によっては、相続人が本来受け取れるはずの最低限の権利(これを遺留分といいます)を請求する可能性がありますが、遺留分のリスクを十分に理解したうえで遺言書を作成したり、遺留分を侵害しないような内容の遺言書を作成したりすることができます。

それらを踏まえ、公文書作成のプロである公証人が法律的に見てきちんと整理した内容の遺言書かどうか、遺言者の意思により作成されたものかどうかを公正・中立な立場から判断したうえで作成することができるため、方式の不備や、遺言者の意思能力の有無で遺言が無効になることはほとんどありません

②災害があっても滅失しない公正証書遺言

遺言書の原本は公証役場で保管

自筆証書遺言は、2020年7月10日からは法務局で保管できる制度が開始されました。

これは、自筆証書遺言を自宅などで保管していた場合、その存在が知られないため発見されずに無駄になったり、自分に不利なことが書いてあると思った相続人がこれを破棄したり、隠匿や改ざんをしたりするリスクを避けるために設けられた制度ですが、公正証書遺言はもとより原本が公証役場で保管され、遺言者の死亡まで他人の目に触れることがないのでそのようなリスクはありません。

大規模な自然災害でも紛失しないよう、二重保存システムを構築

また、震災などの大規模な自然災害で、公証役場の原本や、自宅などに保管されていた謄本、正本が滅失する可能性はゼロとは言いきれませんが、公証役場には電磁的記録(データ)による二重保存システムが構築されています。

③秘密の保持にもすぐれている公正証書遺言

遺言書の内容を秘密にする、秘密証書遺言

遺言内容を誰にも知られずに遺言書を作りたいという場合、よく選ばれるのが秘密証書遺言です。

遺言書の本文は、自筆証書遺言のように自筆でも作成できますが、ほかの人の代筆やパソコンで作成することもできます(ただし、すべての用紙に自筆の署名と押印、日付が必須)。

作成した遺言書は封筒に入れて、遺言書に押印した印鑑と同じ印鑑で封印します。封印した遺言書は、公証役場で証人2人以上の立ち会いのもと、公証人に提出し、その後、公証人は遺言者の申し立てのあった日付を封筒に記載し、遺言者、証人とともに署名・押印します。

こうしてできあがった遺言書は本人が持ち帰りますが、公証役場には遺言者がその日、秘密証書遺言を作成した事実が記録されるわけです。

秘密証書遺言には、遺言内容の秘密を守ることができるだけでなく、公正証書遺言より費用が安いというメリットがあります。

その一方で、自分で保管するため、紛失や偽造、改ざんのリスクがあります。また、自筆証書遺言と同様、方式の不備などで遺言が無効になることもあり、家庭裁判所での検認も必要となります

秘密性も守られる公正証書遺言

ところで、公正証書遺言は公証人と証人に内容を知られてしまうため、「遺言内容の秘密を守るには不向きである」と、しばしばパンフレットや解説書などで語られることもあります。しかし、公証人には法律上の守秘義務が課されており、公証人を補助する書記も職務上知り得たことを外に漏らさないことを宣誓した上で採用されているので、秘密が公証人の側から漏れることはありません。

また、証人の側についても民法上の秘密守秘義務があり、公正証書作成の際には公証人からその旨の説明を受けますので、秘密が漏れる心配はほとんどないと言えるでしょう。

こうしたことを考慮に入れれば、「遺言書に書かれた内容を秘密にしておきたい」という人も、公正証書遺言を選ぶメリットはあると言えます。

④家庭裁判所での検認の必要がない

さらに「家庭裁判所での検認の必要がない」というのも、公正証書遺言の大きなメリットです。

検認とは、遺言者が亡くなって相続が発生した後、家庭裁判所で行う遺言書の状態確認のことです。偽造や改ざんを防ぎ、遺言書の内容を明確にして相続人にその内容を知らせるための手続きで、遺言書が法的に有効であるか無効であるかを判断するものではありません。

自宅など、自分で保管された自筆証書遺言、および秘密証書遺言は、この検認の手続きをしないと開封できないのですが、遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本など、用意しなければならない書類も多く、手間もかかります。

また、すべての手続きを終えるまでに早くて数週間、通常なら1~2ヵ月ほど時間がかかってしまうため、すぐに遺産相続を行えないというデメリットがあります。

そのような検認の手続きを省くことができるのは、公正証書遺言の大きなメリットと言えるでしょう。

⑤障がいや病気などで自書できなくても作成できる

公正証書遺言は、遺言者が口頭で公証人に遺言を述べ、遺言書作成後は公証人がこれを読み聞かせて作成する遺言書です。

従って、障がいや病気などで言葉を話せなかったり、耳が聞こえない人は、公正証書遺言を作ることができずにいました(実際、脳卒中になったり、喉頭がんなどで気管に穴を開けたりする人でも、遺言書を作りたいというニーズは少なくありません)。

筆談や手話、公証役場以外の場所でも作成可能

ところが、民法の改正により、2000年1月からそのような人でも公正証書遺言を作れるようになりました。

自書ができる人の場合、公証人と証人の面前で遺言の趣旨を自書(筆談)で伝えることが認められたのです。自書ができない人は、手話などのできる通訳人を介して申述することも認められています。

また、公証役場に足を運ぶことができない人の場合は、公証人が病院や自宅、福祉施設などに赴いて公正証書遺言を作成することができます。

公正証書遺言作成のデメリット

さて、これまでは公正証書遺言のメリットに焦点を当てて解説して来ましたが、ここからは「手間暇がかかる」「公証人手数料や必要書類の手配料、専門家(司法書士や行政書士等)への報酬などの費用がかかる」といったデメリットについて、見ていくことにしましょう。

公正証書遺言を作成する際に必要となる資料が多い

公正証書遺言を作成するにあたって面倒に感じるのは、用意すべき資料の多さです。

通常、公正証書遺言の作成を依頼する場合は、最低限以下の資料が必要です。

  1. 遺言者本人の本人確認資料
    印鑑登録証明書または運転免許証、住基カードなど顔写真入りの公的機関の発行した証明書のいずれか1つ。
  2. 遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本
  3. 財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票(法人の場合には資格証明書)
  4. 財産の中に不動産がある場合には、その登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書または固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
  5. 遺言者が証人2人以上を用意する場合は、証人予定者の名前、住所、生年月日および職業をメモしたもの

遺言内容によっては、ほかにも用意すべき資料が発生することもあるため、事前に司法書士や行政書士等の民間の専門家に相談し、必要な資料をそろえてもらいましょう。

公正証書遺言の作成費用

次に、公正証書遺言を作成するにあたって、どれだけの費用がかかるのかを見ていきます。

公証人手数料は、財産の価額(客観的に評価された金額)に応じ、次のように定められています。その額は、どこの公証役場でも一律です。

相続財産の価額公証人手数料
100万円以下5,000円
~200万円以下7,000円
~500万円以下1万1,000円
~1,000万円以下1万7,000円
~3,000万円以下2万3,000円
~5,000万円以下2万9,000円
~1億円以下4万3,000円
~3億円以下5,000万円ごとに1万3,000円加算
~10億円以下5,000万円ごとに1万1,000円加算
10億円超5,000万円ごとに8,000円加算
この基準を前提に、具体的に手数料を算出する際は、次のことに留意しなければなりません。

①相続財産に応じた手数料を算出

相続財産の価額は、相続人、受遺者ごとに受けとる財産の価額を算出し、これを上記の基準に当てはめ、その価額に対応する手数料額を求め、これらの手数料額は合算して手数料を算出します。

②遺言加算

遺言加算といって、全体の財産が1億円以下のときは、上記①によって算出された手数料額に、1万1,000円が加算されます。

例えば、「相続人が1人で相続財産5,000万円」のケースでは、「2万9,000円+1万1,000円」で、手数料は4万円となります。

「相続人が3人で相続財産が1人につき2,000万円」であれば、「2万3,000円×3人+1万1,000円」で、手数料は8万円になります。

③原本の枚数や正本、謄本の交付に関する手数料

遺言書は通常、原本、正本、謄本を各1部作成し、原本は法律に基づき役場で保管し、正本と謄本は遺言者に交付します。

原本についてはその枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令で定める横書の証書では3枚)を超えるときは、超える1枚ごとに250円の手数料が加算されます。また、正本と謄本の交付にも1枚につき250円の割合の手数料が必要となります。

④公証役場以外の場所で作成する場合の費用

公証人が、病院、自宅、老人ホームなどに赴いて公正証書を作成する場合、上記①の手数料が50%加算されます。

また、公証人の日当(4時間以内だと1万円、それ以上だと2万円)と、現地までの交通費(実費)がかかります。

⑤証人の日当

公正証書遺言は、証人2人以上の立ち会いのもとで作成されますが、以下の人は証人になることができません。

  • 未成年者
  • 遺言によって相続や遺贈を受ける人とその配偶者および直系血族
  • 公証人の配偶者と四親等以内の親族、書記、雇い人

もし、遺言者がこれ以外に当てはまる証人を用意できなかった場合、公証役場で紹介することもできますが、その際は、証人への日当も発生します。

公証役場によって日当額はまちまちです。それぞれの公証役場に確認してみましょう。

遺言書の種類と作成方法、保管方法、メリット・デメリット

遺言書の種類と特徴

自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言
作成方法遺言者本人が自筆で作成する(財産目録は、パソコンなどで作成したものに署名押印すれば可)たものに署名押印すれば可)
公証役場で遺言内容を口述し、その後、公証人が公正証書遺言を作成(証人2人以上が立ち合う)
作成した遺言書に押印をして封印し、公証役場で遺言書を作成した事実を記録する(証人2人以上が立ち合う)
保管方法自分で保管
・人に見られたり、改ざんされないようにキチンと封印しておく
・金庫など、見つけてもらいやすい場所に保管し、信頼の置ける配偶者や遺言執行者には保管場所を伝えておく
法務局で保管
・法務局に無封の遺言原本を持参し、保管申請をする
・1通につき3,900円の手数料がかかる
・代理申請は不可。必ず遺言者本人が申請する
公証役場で保管
・原本は公証役場で保管し、正本と謄本は遺言者が持ち帰る
・専門家への報酬、公証役場の基本手数料、戸籍謄本などの書類手配の手数料を含めた費用がかかる
自分で保管
・押印し、封印した封筒を公証役場に提出し、作成日と作成した事実を記録する
・遺言書は本人が持ち帰り、自分で保管する
相続発生からの手続き1.遺言書は開封せず、家庭裁判所で検認(遺言書の状態確認)を受ける
2.遺言書を開封する
1.法務局で遺言書情報証明書の交付を請求する(検認は不要)
2.他の相続人に遺言書が保管されていることが通知される
1.最寄りの公証役場で遺言書の写しを発行してもらう(検認は不要)
2.公正証書遺言の正本にて、金融機関や不動産の名義変更などの手続きをすることができる
1.遺言書は開封せず、家庭裁判所で検認(遺言書の状態確認)を受ける
2.遺言書を開封する
メリット・作成方法が比較的簡単
・費用がほとんどかからない
・手軽に書き直しができる
・作成方法が比較的簡単
・手軽に書き直しができる
・検認の必要がない
・法的不備がなく、安心できる
・公証役場が保管してくれるため、紛失や改ざんなどのリスクがない
・検認不要で手続きがすぐに遺産相続を開始できる
・代筆やパソコンでも作成できる
・遺言書の内容の秘密を守れる
デメリット・形式や内容の不備で無効になることがある
・紛失や改ざんのリスクがある。
・開封には検認が必要
・形式や内容の不備で無効になることがある
・保管にあたって所定の手数料がかかる
・作成に手間と費用がかかる
・書き直す際の費用負担が重い
・形式や内容の不備で無効になることがある
・紛失や改ざんのリスクがある
・開封には検認が必要

まとめ

以上、公正証書遺言のメリットとデメリットを、自筆証書遺言と秘密証書遺言と比較しながら見てきました。

公正証書遺言には、「手間暇がかかる」「公証人手数料や必要書類の手配料、専門家(司法書士や行政書士等)への報酬などの費用がかかる」というデメリットがありながら、これを上まわるメリットもあります。ご自身の状況にあわせてふさわしい形を選ぶようにしましょう。

遺言書の作成などで心配なことがある場合には、無料相談可能な専門家をご案内する「いい相続」までお気軽にお問い合わせください。

今すぐ一括見積もりをしたい方はこちら

STEP1 お住まいの地域から探す

付近の専門家を探す

STEP2 見積り内容を選択

わかる範囲で構いません

※司法書士、行政書士、税理士など、対応可能な士業から見積が届きます