併存的債務引受(重畳的債務引受)のメリット・デメリット。免責的債務引受との違いも説明

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本記事の内容は、遺産相続弁護士ガイドの記事を、相続費用見積ガイドの掲載日(2024年10月10日)時点の法令・制度等に基づき再編集しています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

ある人が負う債務を別の人が債権者との合意によって継承することを、債務引受と言います。

特に併存的債務引受とは、債務者と引受人が連帯債務関係にある債務引受のことです。併存的債務引受は、相続に際しておこなわれることがあります。

相続財産に借金などの債務が含まれていた場合、相続放棄や限定承認をしない限り、誰かが引き受けなければなりません。

相続財産に借金が多く困っている人は参考にしてください。

相続財産に債務があった場合

ある人が亡くなって遺産を相続する場合、通常ではプラスの財産(現金や不動産、車、死亡退職金のようなみなし相続財産など)とマイナスの財産(未払金や借金などの債務)両方とも相続の対象となります。

したがって法定相続分通りに相続するか、相続人間で話し合って決める必要があります。

相続人間の協議において、特定の相続人が全相続債務を相続することになったとしても、そのことを相続債権者(相続債務の債権者)に主張することはできません。

相続債権者は、各相続人に対して、法定相続分に応じて額の弁済を求めることができます。

しかし「他の家族に借金を引き継がせたくない、自分一人が引き継ぎたい」という場合もあるでしょう。

そこで、相続後に債務引受によって一人が債務を引き受けることになります。

相続での併存的債務引受の例

例えば、相続人が妻と長男と長女の3人いたケースでは、それぞれの法定相続分は、妻が2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1ずつですが、相続人同士で話し合って、長男が4000万円の相続債務のすべてを相続することになったとします。

相続債権者は、長男から4000万円の弁済を受けても構いませんが、妻に対して2000万円(=4000万円×2分の1)、長女に対して1000万円(=4000万円×4分の1)の弁済を求めることもできます。

妻や長女は、債権者から弁済を求められた場合に、相続人間の協議で長男が全相続債務を負担することになったことをもって、債権者の請求を退けることはできません。

妻や長女が、債権者からの求めに応じて弁済した分は、長男に求償(償還を求めること)することができます。

このような場合に、妻と長女の債務を長男が引き受ける免責的債務引受を行うと、妻と長女は免責され、債権者は妻や長女に弁済を求められることができなくなります。

併存的債務引受(重畳的債務引受)とは

併存的債務引受(重畳的債務引受)とは、引受人が新たに同一内容の債務を負担するものの、債務者も依然として債務を負担し、債務者と引受人が連帯債務関係に入る債務引受です。

債務引受とは、前述のとおり債務を同じままで債務を債務引受人に移転することです。債務引受には、「併存的債務引受(重畳的債務引受)」「免責的債務引受」があります。

なお、併存的債務引受は、重畳的債務引受と表されることもありますが内容は同じです。

併存的債務引受の債務者と引受人は連帯債務関係になる

前述の通り、併存的債務引受(重畳的債務引受)の債務者と引受人は連帯債務関係になります。連帯債務関係とは、複数の債務者が同一内容の債務をそれぞれ独立に負担し、その1人が弁済すれば他の債務者も債務を免れる関係を言います。

民法改正により併存的債務引受の規定が明文化

以前の民法には、併存的債務引受(重畳的債務引受)について直接規定する条文が無く、債務者と引受人の関係が連帯債務関係なのかどうかが条文上明確ではありませんでした(判例では連帯債務関係であるとされていました)。

しかし、2020年の民法の改正により、債務引受に関する規定が新設され、連帯債務関係であることが条文上明確になりました(改正民法470条1項)。

また、これにより、以前は、重畳的債務引受(ちょうじょうてきさいむひきうけ)と呼ばれていましたが、併存的債務引受が一般的な言い回しになりました。

第四百七十条 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。

2 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。

3 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。

4 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。

併存的債務引受と求償権

併存的債務引受では、その他の連帯債務の場合と同様に、債務者と引受人それぞれの負担部分の割合を設定することができます。

負担部分の割合を超えて弁済した場合は、他の連帯債務者に求償(償還を求めること)できます。

例として、1000万円の債務で併存的債務引受が行われ、それぞれの負担部分を、引受人が60%、債務者が40%とした場合について具体的に見ていきたいと思います。

例1 全額を引受人が払った場合

引受人が1000万円の全額を弁済したとします。

この場合、引受人は負担部分の割合60%を超えて弁済した400万円を債務者に求償することができます。

例2 一部を引受人が払った場合

引受人が債権者に800万円を弁済した場合はどうでしょうか?

引受人の負担部分は600万円ですから、800万円-600万円=200万円を求償できるのでしょうか?

そうではなく、負担部分の割合を超えた額を求償することができます。つまり、800万円×40%=320万円を求償することができます。

例3 一部を引受人と債務者が払った場合

例2の場合に加えて、債務者も100万円を弁済していた場合はどうなるでしょうか。

(800万円+100万円)×40%-100万円=260万円を求償できます。

こうした計算式は複雑です。その他にも相続手続きは理解の難しい仕組みや制度がたくさんあります。相続手続きについて心配のある人はぜひ、専門家に相談してみてください。

併存的債務引受のメリットとデメリット

併存的債務引受のメリットとデメリットについて解説します。

併存的債務引受のメリット

併存的債務引受が行われると、連帯債務者が増えるので、債権者にとっては主債務者の資力不足による貸し倒れリスクを軽減できるというメリットがあります。

主債務者にとっても、重畳的債務引受をすることによって、債権者に対して弁済期限の延期等の交渉をする余地が生じ、メリットがあると言えます。

また、引受人にとっては、主債務者が扶養義務者であるような場合に主債務者を助けることができますし、免責的債務引受のように主債務者が免責されるわけではないので、主債務者による弁済の余地も残されますし、負担部分の割合を設定し、それを超えて弁済した場合は、主債務者に求償することもでき、免責的債務引受ほどの負担なく主債務者を助けることができるという意味でメリットがあると言えます。

併存的債務引受のデメリット

まず、債権者にとってのデメリットは特にありません。

債務者や引受人となる人から併存的債務引受の話があれば、債権者にとっては基本的には歓迎すべきことでしょう。

もっとも、引受人が資力に乏しい場合は債務引受をする意味はあまりないため、引受人に資力があるかどうかは、気にする必要があるでしょう。

債務者にとってもデメリットは特にありません。引受人にとっては連帯債務を負うことになるので、大きなデメリットを負うことになります。

併存的債務引受と会社分割

併存的債務引受は金銭債務の保証的な意味合いで行われる場合や、相続債務についての各相続人の負担部分の割合について、債権者も含めて合意を得る目的で行われる場合のほか、会社分割の際に行われる場合があります。

会社分割とは、会社の事業のすべてまたは一部を他の会社に継承することです。

会社分割時に債務を分割承継会社に移転するには債務引受を行わなければなりませんが、免責的債務引受の場合は債権者保護手続きが必要で、併存的債務引受の場合は債権者保護手続きが不要と違いがあります。

債権者保護手続きは、債権者への通知などの手間がかかるほか、期間も1か月以上かかかるので、手間と期間面で、併存的債務引受を選択するメリットがあります。

免責的債務引受との違い

債務引受には併存的債務引受の他に「免責的債務引受」があります。

免責的債務引受とは、債務の引受人が、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担して、債務を引き受けることを言います。

免責的債務引受によって、債務者は自己の債務を免れることができます。引受後は、債権者は旧債務者に債務の履行を求めることはできず、新債務者である引受人に対して履行を求めることになります。

併存的債務引受と免責的債務引受の大きな違いは、免責的債務引受では債務が連帯でなくなることです。

まとめ

相続財産に債務が含まれていた場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

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