認知症に備えて知りたい成年後見人や家族信託という選択肢
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高齢化が進み、認知症の方も増えていくなかで、判断能力の低下した方を狙った犯罪行為が増えています。また判断能力が低下してしまったために、必要のない高額商品を購入してしまうなど、お一人で財産の管理をするのが難しくなってしまう方も少なくありません。
このような場合に、ご本人の財産を保護するための制度が成年後見制度です。
ここでは、成年後見人の選び方やその職務内容、成年後見人に関するよくある疑問点など、いざという時に知っておくべき点について説明します。
目次
成年後見人とは
成年後見人とは、認知症や知的障害等の精神上の疾患により判断能力が著しく低下した方の財産を保護するために、家庭裁判所から選任されて、ご本人の財産保護や身上監護を行う者のことです。
成年後見人が選任されると、ご本人の財産は、家庭裁判所の監督のもと、成年後見人が管理することになります。
また、ご本人(成年被後見人と呼びます)が単独で行った法律行為(契約など)は、日用品の購入等を除いて、成年後見人が取り消すことができるようになります。つまり、ご本人は自由に財産を処分できなくなりますし、周囲の親族も成年後見人の同意なく勝手に使用することができなくなります。
成年後見人を選ばなければならない場合
成年後見人を選ばなければならないような場合には、以下のような場合があります。
- 一人暮らしをしている年老いた母親が認知症になってしまったが、必要のない家のリフォーム工事を度々契約してしまう。
- 父親の遺産分割協議をする必要があるが、弟が知的障害を抱えており、判断能力が不十分で、一人で判断できず、印鑑を押しても無効になってしまう可能性がある。
- 父親と同居している自分の兄弟が、父親がアルツハイマーで判断能力が低下したのをいいことに、父親の財産を勝手に使ってしまっている。
このように、ご本人の判断能力が低下しているために、ご本人の財産や権利が守られていない状況においては、成年後見人を選ぶ必要があります。
成年後見人になれる人は誰か
成年後見人になることができない5つの場合
成年後見人に選ばれるのは、もともと被後見人の身の回りのお世話をしていた親族であることが一般的です。ただ、親族であっても以下の場合は、法律上、成年後見人になれません。いずれも、被後見人の財産を管理する能力や適格がないと思われる者です。
- 未成年者であって結婚していない者
- 家庭裁判所で親権喪失の審判を受けた者や、家庭裁判所で解任された保佐人や補助人であった者
- 破産者であって免責決定を得ていない者
- 被後見人に対し、裁判をしたことがある者及びその者の配偶者、直系血族
- 行方不明者
親族以外の第三者が成年後見人に選ばれる場合
成年後見人には、親族が選ばれることが多いと言っても、次のような場合には親族以外の第三者が選ばれることがあります。
- 親族間において、誰を成年後見人に選ぶかについて意見の対立がある場合
- 被後見人が賃貸用マンションを所有していて賃料収入がある等、一定の事業収入がある場合
- 被後見人の資産が多額の場合
- 被後見人と後見人の候補者やその親族との間で何らかの利害の対立がある場合
- 後見人の候補者が高齢の場合
上記のように、被後見人に多額の財産や一定の継続的収入がある場合や、親族間に利害の衝突や対立があるような場合には、第三者の後見人が選ばれます。この場合に選ばれるのは、弁護士や司法書士等の専門家です。
なお、被後見人の財産管理面ではなく、身の回りのお世話や介護等の面で親族がこれを後見人として引き受けるのが難しい状況の場合、社会福祉士等の専門家が選ばれることもあります。
また、財産管理を行う後見人と身上介護を行う後見人が複数選ばれる場合もあります。
成年後見人を選ぶ手続き
成年後見人選任の申立方法
成年後見人を選ぶためには、家庭裁判所に「後見開始の審判」の申し立てを行う必要があります。後見開始の審判の申し立ては、被後見人となる者の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
家庭裁判所へ後見開始の審判を申し立てる際に最も大切なのは、医師に診断書を作成してもらうことと、成年後見人の候補者を立てることです。
まず、医師の診断書についてですが、被後見人となる本人の権利を制限して後見人を付けるには、本人の判断能力が精神上の障害により著しく低下していることが条件となっています。そのため、それを判断するために申し立て時に医師の診断書が必要とされています。
この診断書の作成は、通常の臨床で行われる程度の診察で足りると考えられているので、特に精神疾患や認知症等の専門医である必要はなく、内科の医師でも作成することができます。そのため、かかりつけの医師に作成してもらう場合が多いようです。
裁判所のホームページでは「成年後見制度における鑑定書・診断書作成の手引」も公開されているので、手引きと診断書の書式を併せて、医師に依頼するのがよいでしょう。
次に、後見人の候補者ですが、あくまで申し立てをする際の候補者なので、家庭裁判所がその候補者を選任するとは限りませんが、申立て時点において、最も適当な人物を候補者として裁判所に伝えるのがよいでしょう。なお、どうしても、適当な候補者がいない場合は、候補者なしでも申し立て自体は可能です。
成年後見人選任の申し立てに必要な書類
家庭裁判所に成年後見人を選任してもらうための後見開始の審判の申し立てに際しては、以下の書類が必要になります。
- 後見開始の審判申立書
- 被後見人となる本人の戸籍謄本、住民票(または戸籍附票)
- 成年後見人候補者の住民票(または戸籍附票)
- 被後見人となる本人の診断書
- 被後見人となる本人について、成年後見等に関する登記がされていないことの証明書(法務局で取得可能)
- 被後見人となる本人の財産の目録及び資料(不動産の場合は登記事項証明書、預貯金や有価証券の場合は通帳の写し等)
- 収入印紙3400円分(申立手数料800円+登記手数料2600円)
- 連絡用の郵便切手(家庭裁判所によって金額が異なります)
成年後見人選任の申し立て後の流れ
後見開始の審判の申し立てを行うと、家庭裁判所による調査が行われます。この調査を担当するのは家庭裁判所調査官です。
家庭裁判所調査官は、被後見人となる本人や後見人候補者と面談をして、本人や親族の生活状況、申し立てに至った経緯などを調査します。
家庭裁判所調査官の調査を踏まえて裁判所が必要があると判断したときには、被後見人となる本人に対し医師による鑑定が行われます。医師による鑑定が行われる場合は、別途鑑定費用として5〜20万円程度が必要になりますが、鑑定が行われるケースの方が少ないと言われています。
最終的に、裁判所が、本人の判断能力が著しく低下していると判断した場合は、後見開始の審判がなされ、成年後見人が選任されます。なお、鑑定の結果、本人の判断能力が「後見」の程度まで至っていないと判断された場合は、「保佐」や「補助」の審判がなされる場合もあります(その場合、保佐人や補助人が選任されます)。
成年後見人の職務
本人の身上監護と財産管理
成年後見人の日常の職務は、本人(被後見人)の身上監護と財産管理です。
身上監護とは、実際に身の回りのお世話をするということではなく、介護契約や施設入所契約、医療契約等を本人に代わって行うほか、本人の生活のために必要な費用を本人の財産から計画的に支出することが役割となります。
監護は長期的になることが多いため、本人の財産からの支出は、当然ながら収支計画を立てて破綻しない範囲で行う必要があります。そのため、後見人は、本人の財産管理も同時に行う必要があります。
後見人に就任したら、まず本人の財産目録を作成し、収入や支出については、都度きちんと記録をして、領収書等の書類を保管しておかなければなりません。
この際、本人の財産は、あくまで本人(及び本人に扶養されている人)のためだけに使用できるものですから、第三者(後見人を含む)のために使用したり、第三者に貸し付けをしたりすることもできません。
家庭裁判所への報告
成年後見人は年1回、家庭裁判所に、後見人としての職務について報告をする必要があります。これを後見等事務報告といいます。
報告に際しては、報告書のほか、本人の財産目録、預貯金通帳のコピー、収支表等の提出が求められます。
なお、後見人には、親族であっても後見人としての職務に対して、本人の財産から報酬を得ることが認められています。その報酬の額は家庭裁判所が決定します。そのため、家庭裁判所への報告と併せて、家庭裁判所に報酬の決定を求めること(報酬付与の申し立て)ができます。なお、報酬を望まない場合は、敢えて申し立てをする必要はありません(報酬を望まない場合も年1回の報告は必要です)。
成年後見人の報酬は、本人の財産額や後見人として行った職務の内容によって変わってきますが、特に高度な職務(後見人に対して不法行為を行った者に対して訴訟を起こした等)を行った場合以外は、通常、月額2〜5万円程度であることが多いようです。
成年後見人にかかる費用
成年後見人が必要になったときにかかる費用には、成年後見人を選任する際の費用と、成年後見人に対する報酬があります。
成年後見人の選任にかかる費用
成年後見人の選任時にかかる費用としては、後見開始の申し立てをする際に、戸籍謄本や診断書等の必要書類を集めるための費用(戸籍謄本は1通当たり450円、診断書は病院によって幅があるが5,000〜2万円程度が一般的)と、裁判所に申し立てる時に収める手数料(収入印紙と郵便切手を合わせても5,000〜1万円程度)が必要になります。
なお、この申し立ての手続は弁護士に依頼することができますが、弁護士に依頼した場合は、10〜30万円程度の弁護士費用が必要となります。
成年後見人の報酬
成年後見人を選任すると、その職務に対して報酬が発生します。報酬の額は後見人からの申し立てにより、家庭裁判所が決定します。親族が後見人となっている場合は、あえて報酬の申し立てをしない場合も多いようですが、弁護士等の専門家が後見人となっている場合は、必ず報酬が発生します。
なお、報酬は、被後見人の財産の額や、後見人として行った職務の内容によって上下しますが、通常は月額2〜5万円程度であることが一般的です。
成年後見人に関するよくある疑問
法人が成年後見人になることは可能?
成年後見人には、通常個人が選ばれることが多いのですが、法人が成年後見人になることも可能です。
法人が成年後見人に選ばれる場合としては、社会福祉協議会などの公的団体や、NPO法人、弁護士法人や司法書士法人などがあります。
個人が成年後見人になった場合、その方が被後見人よりも先に亡くなってしまう可能性もあり、その場合、別の後見人をあらためて選ぶ必要があります。これに対し、法人が成年後見人の場合は、担当者は変わるかもしれませんが、法人がなくならない限り、ずっと後見人としての職務を果たしてもらえるというメリットがあります。
成年後見監督人とは?
成年後見監督人とは、その名前のとおり、成年後見人を監督する立場の人です。
親族間に争い等があるものの弁護士等の専門家を後見人に選ぶほどではないような場合に、家庭裁判所が親族を後見人に選んだ際、その後見人を監督する意味で、成年後見人と併せて成年後見監督人を選ぶ場合があります。
成年後見監督人は、後見人の職務を監督するほか、後見人と被後見人の利害が対立する場合(後見人と被後見人がともに同一人の相続人となった場合、後見人が被後見人の財産を処分する必要がある場合など)に、被後見人の代理人として行動するという役割もあります。
法定後見人と任意後見人の違いとは?
ある方が認知症等になって後見人が必要になった場合に、申し立てにより、家庭裁判所で選ばれる後見人を法定後見人といいます。
これに対し、将来もし自分が認知症等になって後見人が必要になったときに、後見人になって欲しい人との間で、あらかじめ、将来後見人になってもらう約束(これを任意後見契約といいます)を交わしていた場合に、実際に後見人が必要人なった際に、その契約に基づいて後見人となった人を任意後見人といます。
任意後見契約を交わしている場合でも、その方を後見人とする際には家庭裁判所への申し立てが必要になります。申し立てを行うと、家庭裁判所は、この任意後見人を監督するために任意後見監督人を選任します。
成年後見制度のデメリットは?
成年後見制度は、判断能力が低下した方の財産等を保護するための制度です。
判断能力が低下した方の法律行為を制限し、成年後見人が付くことで、一部の親族が勝手に本人の財産を費消してしまったり、ご本人が悪質商法や詐欺の被害にあったりすることを防ぐことができます。
反面、ご本人の財産の使用に関しては、厳しい制約がつき、家庭裁判所の監督下に置かれます。
そのため、ちょっとした日用品の購入なども全てレシートを残して収支を記録しておかなければなりません。後見人がご本人の介護なども同時に行っている場合には、このような事務作業が結構負担になることがあります。
また、家庭裁判所はあくまで本人の財産の保護という観点から判断を行います。そのため、不動産投資や株式投資等の積極的な運用をしたり、相続税対策の目的で不動産等を購入したりといった積極的な財産の活用ができなくなります。
成年後見制度は、ご本人の財産の流出を防ぐことが出来る反面、事務の負担や、柔軟な財産の利用ができなくなるといったデメリットがあります。
成年後見と家族信託との違いとは?
家族信託とは、本人の判断能力があるうちに、その財産の管理を特定の第三者に委託する方法です。将来、本人の判断能力が低下してもきちんと財産を管理してもらえるという点においては、成年後見制度と同様の機能を有していると言えます。
ただ、成年後見人は、あくまで、本人の判断能力が低下した時点(そのように医師や裁判所が認めた時点)においてのみ職務を行うことができるのに対し、家族信託の場合は、本人に判断能力が十分ある場合でも、第三者に財産の管理を委託することができます。
また、成年後見人は家庭裁判所の監督を受ける立場なので、積極的な財産管理(投資や節税など)を行うのは難しいですが、家族信託の場合は、信託契約の内容に反しない限度であれば、誰かの監督を受けることなく自由に財産管理や運用を行うことが可能です。
成年後見人に関する登記事項証明書とは?
成年後見人が選任されると、その旨が法務局において登記されます。
以前、成年後見制度が禁治産制度と呼ばれていた頃には、禁治産者になると戸籍謄本に記載されていましたが、現在の成年後見制度になってからは、後見人がついたことは戸籍謄本や住民票には一切記載されず、法務局において登記されます。
そのため、後見人がついていることや、逆に、後見人がついてないことを証明するためには、法務局で登記事項証明書を取得する必要があります(例えば、一定の職種に就くためには、成年被後見人でないことが要件となっているものがあるため、それらの職業に就く際には登記事項証明書を求められます)。
成年後見人について専門家に相談したいときには
成年後見制度は、裁判所への申立に際し様々な書類が必要ですし、その後も家庭裁判所に対する報告が必要になります。また、ご本人が後見制度を利用する前に詐欺の被害にあっていたために、後見人が業者に対して裁判を起こす必要があったり、ご本人が相続人となるので後見人が遺産分割協議に参加しなければならなかったりする等、様々な法律行為を求められる場合もあります。
そのため、申し立ての段階から、実際に後見人が付いた後も含めて、法律的なアドバイスを必要とする場面がしばしば出てきます。
そのような場合は、法律の専門家に相談をされるとよいでしょう。
特に、親族の後見人ではなく(または親族の後見人と一緒に)、第三者の専門家の後見人が選任される可能性がある場合、いきなり全く知らない専門家が後見人に選ばれるよりも、事前に複数の専門家に相談をして、信頼できる専門家の方を後見人の候補者として家庭裁判所に申し立てをしたほうが、親族の方も安心だと思います。
ですから、後見制度の利用を検討する際は、早い段階で専門家に相談をされてみるのがよいでしょう。
まとめ
高齢化は今後避けて通れない問題です。両親等の将来だけでなく、自分自身が将来、判断能力が低下してしまう可能性も十分あります。
せっかくご本人が築いた財産がちょっとしたことで無くなってしまわないよう、ご本人の老後のためにも、また、子供たちなどに残す財産をきちんと引き継いでいくためにも、専門家のアドバイスを受けながら、成年後見制度や家族信託等を上手に利用されることをおすすめします。
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