自筆証書遺言書保管制度を一から解説!手数料や必要書類・メリットは?【行政書士監修】

更新日

本記事の内容は、原則、記事執筆日(2020年9月3日)時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。
自筆証書遺言書保管制度について解説
自筆証書遺言書保管制度を一から解説!手数料や必要書類・メリットは?【行政書士監修】

公正証書遺言と違い、これまで自宅などで保管しなければならなかった自筆証書遺言書。

紛失や改ざん、あるいは亡くなった後に発見されないままになってしまうといったデメリットやリスクが指摘されてきましたが、2020年7月に開始された新しい制度で、自筆証書遺言書を法務局に預けることができるようになりました。

この記事では、自筆証書遺言書保管制度の概要、自筆証書遺言書保管制度の手数料や必要書類、自筆証書遺言書保管制度の利用の流れなど、この預かり制度についての気になるポイントを詳しく解説します。

POINT
自筆証書遺言書保管制度

制度を利用すれば、少ない費用・証人なしで遺言書を安全に保管することが可能に。ただし内容を審査してもらえるわけではありません

この記事の監修者

古閑公士行政書士事務所

古閑公士

〈行政書士〉

長年の裁判所事務官としての勤務後、行政書士事務所を開業。「円満な相続の実現」をめざして、一歩を踏み出すためのサポートを提供している。

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自筆証書遺言書の法務局保管制度とは

最近話題となっている自筆証書遺言保管制度ですが、どのような制度なのでしょうか?

自筆証書遺言書保管制度って?

「自筆証書遺言書保管制度」とは一言で言うと、「自分の手で書いた遺言書を法務局に預けることができる」制度です。

2018年に成立した「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)により、2020年7月10日から法務局での保管が可能になりました。

ここが新しい!自筆証書遺言書保管制度

自筆証書遺言書保管制度の開始前と開始後では何が変わったのでしょうか。

制度の開始前

そもそも遺言書の作成方法には主に、

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

という3種類があり、このうち公正証書遺言以外は自身で保管しなければならないものでした。

公正証書遺言は、遺言者が公証役場に出向いて公証人の面前で作成する遺言書。作成した遺言書は原本が公証役場に半永久的に保存されるため、改ざんや紛失のリスクがないことが利点です。

自筆証書遺言は遺言者が自ら作成して自ら保管をするもの、秘密証書遺言は公証役場で遺言の存在を証明してもらった上で、やはり遺言者自ら保管するものです。どちらも個人保管となるため、改ざんや紛失、あるいは亡くなった際に結局発見されないといった可能性がありました。

制度の開始後

今回の保管制度が開始されると、公正証書遺言だけでなく自筆証書遺言も法的機関に預けることができるようになります。自身で作成した遺言書を法務局に持ち込むと、制度に則った様式かどうかをチェックしてもらった上で預かってもらうことができます。

これまでは、預けることのできる遺言書(すなわち公正証書遺言)は作成や手続きに費用がかさむこと、本人以外の者である証人に遺言内容を知られてしまうことがデメリットとして挙げられていました。ですが、この制度を利用すれば、少ない費用・証人なしで遺言書を安全に保管することが可能になります。

自筆証書遺言書保管制度のメリット・デメリット

この遺言書預かり制度を利用するメリットやデメリットはどういったものがあるのでしょうか。

メリット

自筆証書遺言を預ける利点としては、次の3点が挙げられます。

  1. 形式違反による無効が防げる
    遺言書を預ける際、法務局で様式のチェックをしてもらうことができます。このため、せっかく書いた遺言書が様式の不備によって無効とされてしまうことがありません。
  2. 検認が不要になる
    遺言者が亡くなった際、家庭裁判所での検認をおこなう手間がなくなります。
  3. 改ざんや紛失のリスクがなくなる
    個人で保管をしないため、遺言書をなくしてしまったり、相続人や第三者が改ざん・偽造などをおこなってしまう心配がありません。

デメリット

一方で、次のような点には注意が必要です。

  1. 費用がかかる
    自身で保管するのと違い、手数料が必要になります。(詳しくは後述)
  2. 遺言の内容自体は審査されない
    遺言書を預ける際に形式は確認してもらえますが、遺言の内容自体は審査されないため、内容の正確性や遺言者の遺言能力についての紛争を防ぐ手立てになるわけではありません。
  3. 本人が出頭しなければいけない
    遺言者本人が法務局に出向く必要があるため、体の不自由な方や外出が難しい方にとっては利用がしづらいかもしれません。

以上のようなメリットやデメリットを理解した上で、自筆証書遺言書保管制度を利用するかどうか検討してみましょう。

自筆証書遺言書保管制度を利用するには

実際にこの遺言書預かり制度を利用するには、何を用意してどんな手続きをすればいいのでしょうか?

ここでは、遺言者自身がおこなう手続きの流れについてご説明します。遺言者が亡くなった後に相続人がおこなう手続きについては、次の章をご参考ください。

自筆証書遺言書を法務局に預ける流れ

次のようなステップで自筆証書遺言書を預けることができます。

①自筆証書遺言を書く

まずは遺言書を書きましょう。 遺言書の詳しい書き方については、こちらの記事をご参考にしてください。

②保管の申請をする遺言書保管所を決める

遺言書を預かってもらう保管所(法務局)を決めます。 申請ができるのは、

  • 遺言者の住所地
  • 遺言者の本籍地
  • 遺言者が所有する不動産の所在地

のいずれかを管轄している遺言書保管所です。 全国の遺言書保管所一覧は法務省の「遺言書保管所一覧」のページから確認することができます。 ただし、すでに他の遺言書を遺言書保管所に預けている場合には、預け先はその保管所となりますのでご注意ください。

③申請書を作成する

申請書への記入をおこないましょう。申請書は法務省のWebサイトからダウンロードして印刷するか、法務局(遺言書保管所)の窓口でもらうこともできます。

④保管の申請予約

自筆証書遺言書保管制度の利用には予約が必要となっています。あらかじめ予約をする法務局を決め、専用ページから予約をおこないます。もしくは、法務局の窓口または電話でも予約をすることができます(平日8:30から17:15まで)。

⑤本人が出向き、保管を申請する

予約した日時に、遺言者自身が遺言書保管所で申請をおこないます。

⑥保管証を受け取る

手続きが完了すると、

  • 遺言者の氏名
  • 遺言者の生年月日
  • 遺言書保管所の名称
  • 保管番号

などが記載された保管証が発行されます。 この保管証は遺言書を閲覧したり、申請の撤回や変更の届出をするときなどに必要となりますので、大切に保管しておきましょう。 自筆証書遺言書を預けるのに必要な書類
遺言書保管所(法務局)に出向いて申請をおこなう際に必要な書類は次のとおりです。

  • 自筆証書遺言
    ホチキス止めはNG。封をしたり、封筒に入れたりする必要はありません。
  • 申請書
    法務局のWebサイトからダウンロードするか、遺言書保管所(法務局)の窓口で手に入れましょう。
  • 添付書類
    本籍の記載のある住民票の写し等(作成から3ヵ月以内)が必要です。
  • 本人確認書類
    マイナンバーカードや運転免許証など、本人の確認が取れるもの。有効期限内のものに限ります。

自筆証書遺言書保管制度の手数料

自筆証書遺言書を法務局に預けるには、上述の書類に加えて手数料が必要になります。

遺言書の保管申請にかかる手数料(収入印紙)は、1通につき3,900円です。なお、保管申請の撤回や遺言者の氏名・住所等の変更の届出については費用はかかりません。

遺言者が亡くなったら

自筆証書遺言を法務局に預けている方が亡くなった際、相続人やご家族はどういった手続きをおこなえば良いのでしょうか。
相続人等ができる手続きや請求には、次の3つがあります。

  • 自筆証書遺言書が預けられているかどうかを確認する
  • 預けられている自筆証書遺言書の内容を閲覧する
  • 預けられている自筆証書遺言書の内容を証明してもらう

順番に手続きの方法や必要書類・手数料を見ていきましょう。

自筆証書遺言書が預けられているか確認する手続き

次のような手順で、法務局に自筆証書遺言があるかどうかを確認していきます。なお、確認ができるのは遺言者が亡くなっている場合だけであり、生前に確認することはできません。

①交付の請求をする遺言書保管所を決める

どこの遺言書保管所(法務局)で確認をおこなうのかを決めましょう。全国のどの保管所でも請求ができます。
全国の遺言書保管所一覧は法務省の「遺言書保管所一覧」のページから確認することができます。

②請求書を作成する

交付の請求書を作成します。

誰でも請求ができるわけではなく、請求ができるのは、

  • 相続人
  • 遺言執行者
  • 受遺者
  • 上記の親権者や成年後見人等の法定代理人

といった者に限られます。

以下の必要書類を準備しましょう。

  • 遺言者の死亡の事実を確認できる戸籍(除籍)謄本
  • 請求人の住民票の写し
  • (請求人が相続人の場合)遺言者の相続人であることを確認できる戸籍謄本
  • (請求人が法人の場合)法人の代表者事項証明書※作成3ヵ月以内
  • (請求人が法定代理人の場合)戸籍謄本(親権者)や登記事項証明書(後見人等)※作成3ヵ月以内

③交付の請求を予約する

交付の請求にも事前の予約が必要となっています。

④交付の請求をする

遺言書保管所(法務局)の窓口または郵送で請求書や添付書類を提出し、請求をおこないます。

手数料は1通につき800円で、収入印紙を手数料納付用紙に貼ります。郵送で手続きをする場合には、自分の住所を書いた返信用封筒と切手を同封しましょう。

⑤遺言書保管事実証明書を受け取る

遺言書が保管されている旨、もしくは保管されていない旨を証明した文書を受け取ります。保管されていた場合には、遺言書の中身を閲覧したり、遺言書情報証明書の交付の請求をしたりすることができます。

出典:法務省ホームページより

自筆証書遺言書の閲覧をする手続き

先ほどの手続きで自筆証書遺言書が法務局に保管されていることがわかった場合、その内容を閲覧することができます。モニターで画像を閲覧するか、または原本を閲覧する形ですが、いずれも遺言者が亡くなっている場合に限られています。

閲覧の流れは次のとおりです。

①閲覧の請求をする遺言書保管所を決める

モニターによる画像の閲覧であれば、全国どの遺言書保管所(法務局)でも請求ができます。全国の遺言書保管所一覧は法務省の「遺言書保管所一覧」のページから確認してください。

遺言書の原本を閲覧したい場合は、原本が保管されている遺言書保管所(法務局)でのみ請求が可能です。遺言者の方は、利用した遺言書保管所を事前に相続人となる家族に伝えておくと良いかもしれません。

②請求書を作成する

閲覧の請求書を作成します。

こちらも請求ができるのは、

  • 相続人
  • 遺言執行者
  • 受遺者
  • 上記の親権者や成年後見人等の法定代理人

に限られます。

③閲覧の請求を予約する

閲覧の請求にも予約が必要ですので、事前に確認しておきましょう。

④閲覧の請求をする

請求書を提出し、あわせて本人確認書類を提示します。本人確認書類は、運転免許証等の顔写真付きの身分証明書とされていますのでご注意ください。

閲覧の手数料は、

  • モニターによる閲覧の場合:1回につき1,400円
  • 原本の閲覧の場合:1回につき1,700円

です。必要な収入印紙を手数料納付用紙に貼りましょう。

⑤閲覧をする

請求が認められると、モニター画像または原本の閲覧ができます。
相続人等が遺言書の閲覧をすると、遺言保管官がそのほかの相続人等に対し、遺言書を保管していることを通知します。

自筆証書遺言書の内容を証明してもらう手続き

遺言書保管所(法務局)に自筆証書遺言書が保管されていた場合、その内容の証明書を発行してもらうことができます。

証明書の取得の流れは次のとおりです。

①交付の請求をする遺言書保管所を決める

請求をおこなう遺言書保管所(法務局)を決めましょう。全国のどの保管所でも請求ができます。

全国の遺言書保管所一覧は法務省のこちらのページから確認することができます。

②請求書を作成する

請求書を作成しましょう。こちらも請求ができるのは、

  • 相続人
  • 遺言執行者
  • 受遺者
  • 上記の親権者や成年後見人等の法定代理人

に限られますのでご注意ください。

以下の必要書類を準備します。

◆住所の記載のある法定相続情報一覧図の写しを持っている場合

  • 住所の記載のある法定相続情報一覧図の写し
  • (請求人が受遺者、遺言執行人等の場合)請求人の住民票の写し
  • (請求人が法人の場合)法人の代表者事項証明書※作成3ヵ月以内
  • (請求人が法定代理人の場合)戸籍謄本(親権者)や登記事項証明書(後見人等)※作成3ヵ月以内

◆住所の記載のない法定相続情報一覧図の写しを持っている場合

  • 住所の記載のない法定相続情報一覧図の写し
  • 相続人全員の住民票の写し※作成3ヵ月以内
  • (請求人が受遺者、遺言執行人等の場合)請求人の住民票の写し
  • (請求人が法人の場合)法人の代表者事項証明書※作成3ヵ月以内
  • (請求人が法定代理人の場合)戸籍謄本(親権者)や登記事項証明書(後見人等)※作成3ヵ月以内

◆法定相続情報一覧図を持っていない場合

  • 遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍)謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の住民票の写し※作成3ヵ月以内
  • (請求人が受遺者、遺言執行人等の場合)請求人の住民票の写し
  • (請求人が法人の場合)法人の代表者事項証明書※作成3ヵ月以内
  • (請求人が法定代理人の場合)戸籍謄本(親権者)や登記事項証明書(後見人等)※作成3ヵ月以内

法定相続情報一覧図についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、併せてご参考にしてください。 

③交付の請求の予約をする

こちらも予約が必要となっていますので、事前に確認しておきましょう。

④交付の請求をする

遺言書保管所(法務局)の窓口または郵送で請求書や添付書類を提出し、請求をおこないます。

手数料は1通につき1,400円。収入印紙を手数料納付用紙に貼ります。また、郵送で請求する場合には自分の住所を書いた返信用封筒と切手の同封を忘れないようにしましょう。

⑤証明書を受け取る

請求が認められると、遺言書の写しと遺言書情報証明書を受け取ることができます。

この証明書は相続登記や銀行など での各種手続きに使うことができ、家庭裁判所による検認も不要です。
相続人等に証明書が交付されると、遺言保管官がその他の相続人等に対し、遺言書を保管していることを通知します。

出典:法務省 遺言書情報証明書及び遺言書保管事実証明書について

自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言の違い

法務局で保管してもらえる自筆証書遺言と、公証役場で保管してもらえる公正証書遺言ではどのような違いがあり、それぞれどういった方に向いているのでしょうか。

自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言の比較

ここでは、検討の際に気になる5つのポイントで比較してみました。

①費用

いちばん気になるのが手数料などの費用ではないでしょうか。

自筆証書遺言書保管制度でかかる費用は、法務局に支払う3,900円(1通あたり)。この手数料は財産金額や相続人の数によらず一律です。また、作成は自身でおこなうので無料です。

一方、公正証書遺言を作成し預けるのにかかる費用は、少なくとも数万円程度。相続財産の金額や依頼先によっても異なりますが、相場としては十万円~数十万円ほどと言われています。

このように、費用を抑えることを考えるなら、自筆証書遺言書の預かり制度の方がやはりリーズナブルです。

②難しさ

初めて遺言書を作成したり預けたりする方にとっては、その難易度も気になるところではないでしょうか。

自筆証書遺言は自ら手書きで書く遺言書であり、不備のないよう自分でしっかり調べて用意する必要があります。自分で書いて法務局に持っていくだけという意味では手軽ですが、作成の難易度は高めと言えます。

一方の公正証書遺言は、遺言者が口述した遺言の趣旨に基づき、公証人が作成します。立ち会ってもらう証人を決めたり、公証人と段取りの打ち合わせをしたりするという部分では手間がかかりますが、遺言書本文の作成に関しては遺言者自身の負担は小さいと言えるでしょう。

③保管の安全性

遺言書を預かってもらう以上、その安全性も確認しておきたいところですよね。

ここまで述べているように、自筆証書遺言書を保管してくれるのは法務局です。一方、公正証書遺言を預かってくれるのは公証役場。公証役場とは、法務局が管轄する役所で、全国約300カ所に設置されています。遺言書の作成以外に、お金の貸し借りに関する契約や離婚時の養育費の支払い契約などでも利用することがあります。

どちらも法務局または法務局の管轄する機関で保管されることから、第三者による改ざんや偽造のリスクは低く、安全性としては同程度と言えます。

④相続人は遺言書の存在を知ることができるか

せっかく書いた遺言書も、遺言者の死後に誰にもその存在を知られないまま遺産分割が進められてしまっては意味がありません。遺言書の存在は、それぞれどのようにして相続人等の関係者の知るところとなるのでしょうか。

自筆証書遺言書保管制度を利用していると、遺言者の死後に相続人等の誰かが遺言書を閲覧したり、遺言書情報証明書の交付を受けたりした場合、すべての相続人等に対して通知がされます。誰かが閲覧などの行動をおこなった場合に限られますが、これにより相続人等の中の一部だけが遺言書の存在や内容を知っている、という状況によるトラブルを回避することができます。

また、自筆証書遺言書保管制度では、遺言者の死亡時、指定された1名に遺言書保管の情報が通知されるという制度もあります。遺言者の死亡届が市町村役場に提出された際に法務局宛てに死亡の情報が提供されるという仕組みで、保管申請の際に届け出をすれば利用することができます。

出典:法務省ホームページより

一方の公正証書遺言は、現状こうした通知システムを持っていません。遺言者が生前から家族等に遺言書の存在を話していたり、遺言者の死後に相続人等が公証役場に照会をおこなったりしないと、遺言書をまったく無視して相続手続きがおこなわれることになってしまいます。
いずれの場合においても、作成した遺言書がしっかりと役立てられるためには遺言書の存在について家族にお知らせしておくことが大切です。

⑤紛争防止の効果

遺言書は被相続人自身の意思を相続人等に伝えることができるので、相続人間の争いごとの予防を期待する方も多いかと思います。

自筆証書遺言書保管制度では、法務局に預ける際には様式の不備がないかどうかについてはチェックをしてもらえますが、内容の不備については確認してもらうことができません。遺言書の内容の正しさや、遺言者の遺言能力は担保されないのです。

そのため、自筆証書遺言はせっかく手間暇をかけて書いても、遺言能力がなかったとみなされて無効になるなどのリスクがあり、必ずしも紛争の防止には寄与しません。

これに対し、公正証書遺言は公証役場で遺言者が遺言の趣旨を口頭で伝え、公証人が作成します。公証人は遺言者本人に、遺言の内容について意思を確認します。証人の立会のもとで公証人によって作成される公正証書遺言は、高い確率で紛争を防止してくれると言えます。

遺言書の選び方のポイント

以上①~⑤の観点での比較をまとめると、次のようになります。

自筆証書遺言書保管制度公正証書遺言
①費用3,900円数万円~数十万円
②難しさ本文作成のハードル:高い
手続きのハードル:低い
本文作成のハードル:低い
手続きのハードル:高い
③保管の安全性高い高い
④相続人は遺言書の存在を知ることができるか通知システムがある通知システムはない
⑤紛争防止の効果必ずしも高くない高い

こうしたことから、自筆証書遺言書の法務局保管制度と公正証書遺言はそれぞれ次のような方におすすめできます。

◆こんな方には自筆証書遺言書保管制度がおすすめ

  • 費用を抑えたい
  • 手軽に手続きをしたい
  • 本文は自分で書き方を調べて手書きしようと思っている

◆こんな方には公正証書遺言がおすすめ

  • 遺言書が無効になることを極力避けたい
  • 自分の死後の紛争を防ぎたい
  • 多少費用がかかっても確実に遺言をのこしたい

自筆証書遺言書保管制度のよくある疑問

最後に、自筆証書遺言の預かり制度でよくある疑問とその答えをまとめます。

Q. 保管申請の際に、法務局で遺言書の書き方を教えてもらえる?

法務局(遺言書保管所)ではあくまで様式の確認しかしてもらえません。書き方は自身で調べて遺言書の作成をおこなう必要があります。

Q. 預かってもらった自筆証書遺言は変更や撤回することができる?

自筆証書遺言は保管申請を撤回することができます。撤回するには、撤回書を作成し、予約を取って法務局(遺言書保管所)に提出する必要があります。

遺言書の内容を変更したい場合には、一度保管申請を撤回して遺言書を返還してもらい、内容を変更してから再度保管申請をおこないましょう。撤回の手続きを取らずに新たな遺言書を預けることもできますが、同じ遺言者に対して遺言書が複数預けられている状況になってしまい、あまりおすすめできません。

なお、どちらの場合においても、保管申請を再度おこなう場合には改めて申請の手数料が必要です。また、ここでの変更とは遺言内容の変更であり、遺言者の住所や氏名等の変更については無料でおこなうことができます。

Q. 代理人に遺言書保管の申請を依頼することはできる?

自筆証書遺言書保管制度を利用するためには、遺言者本人が出頭する必要があり、代理人が法務局に出向いて保管申請をすることはできません。

Q. 手数料を支払うための収入印紙はどこで購入できる?

法務局(遺言書保管所)庁舎内の販売窓口や、郵便局等でも購入することができます。

Q. 遺言書を法務局に預けた後はどうすればいい?

できれば、法務局に遺言書を預けたことを家族(相続人等になる方)に伝えておきましょう。自身が亡くなった際、家族がすみやかに遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の請求などの手続きをおこなうことができます。

まとめ

法務局における自筆証書遺言書保管制度について、概要から手続きの方法、公正証書遺言との比較まで詳しくご紹介してきました。

法務局で預かってもらえることで保管の安全性が増した自筆証書遺言書ですが、文章を自分自身で手書きする必要があること、遺言内容については審査をしてもらえないため死後の紛争を防ぎきれないこと、などには注意が必要です。多少費用がかかっても、無効になることを極力回避でき紛争リスクを防ぎやすい遺言書を確実に作成したい場合には、やはり公正証書遺言がおすすめです。

「どちらの遺言書を作成すべきか迷っている」「公正証書遺言の作成を依頼したい」といった場合には、一度行政書士等の相続専門家に相談してみましょう。

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