【令和4年度税制改正】暦年贈与の基礎控除、年間110万円が廃止されるのか?!

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本記事の内容は、原則、記事執筆日(2022年4月19日)時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。
暦年贈与(暦年課税)は廃止されるの?
【令和4年度税制改正】暦年贈与の基礎控除、年間110万円が廃止されるのか?!

相続税対策としてよく行われる方法のひとつに「暦年贈与」があります。これにより、年間110万円まで贈与税がかからず生前贈与をすることが可能です。

しかし、ここ最近「暦年贈与が廃止される」「相続税と贈与税が一体化される」などの噂が聞こえてきます。

もし暦年贈与が廃止されてしまうと、相続時に多額の相続税を支払わなければならない可能性も…。「今から贈与しておかなくちゃ」と焦ってしまいますよね。

実際に、暦年贈与が廃止される可能性はあるのでしょうか?今回は暦年贈与が廃止されるという噂の根拠や、税制改正などについて解説していきます。

記事を3行で先読み!
この記事はこんな方におすすめ:
「生前贈与を考えている人」「相続税を抑えたい人」

この記事のポイント:

  • 現行では、年間110万円までなら贈与税がかからない
  • 相続から3年以内に行われた贈与は、相続財産に加算される(3年加算)
  • 今後、持ち戻し期間である3年が延長される可能性がある

政府の税制調査会では、相続税・贈与税の見直しを議論

今のところ暦年贈与はまだ廃止されないとは考えられます。

なぜなら、中里実会長(東京大学名誉教授)が令和4年9月16日の政府税制調査会終了後の記者会見で「一部には、『近々暦年課税が廃止されるのではないか』、あるいは『110万円の基礎控除が使えなくなるのではないか』といった見方、ご懸念があるようですが、そういった議論を行うのではなく~」と発言されているからです。

相続時精算課税制度における少額の贈与は、今後非課税になる?

この税制調査会(首相の諮問機関)の専門家会合では、生前贈与を円滑にするため相続・贈与税の見直しが議論されてきました。

そして令和4年11月8日の総会で議論の結果が報告されました。この中で「高齢者から若い世代への資産の移転を促し、経済を活性化させるため、現在、実施されている『相続時精算課税制度』の使い勝手を向上させるべき」という意見が出ています。

相続時精算課税制度とは、贈与の際の一定額を非課税としたうえで、相続の際に一括して精算する制度です。生前贈与を促すために設置されましたが、利用には申告が必要であったり、暦年課税が使えなくなるなどのデメリットもありました。

今後、相続時精算課税制度において少額の贈与であれば、非課税となる可能性が示唆されました。

暦年贈与とは

まず贈与とは、無償で金銭を譲り相手に受諾されることを言います。この個人間の贈与にかかる税金が贈与税です。贈与税は「暦年贈与」と呼ばれる、年間110万円までの非課税枠が設定されています。

したがって年間110万円を超えなければ贈与税はかからず、申告の必要もありません。

この制度によって少しずつ贈与をすれば、多額の資産を非課税で贈与することができます。暦年贈与は、ポピュラーな相続税対策のひとつと言えるでしょう。

贈与税がかかる場合

年間110万円の基礎控除を超えて贈与を行うと、110万円を超えた金額に贈与税が課されます。贈与税の金額は、課税価格によって税率が変わってきます。

また、贈与税の税率には一般税率と特例税率があります。特例税率は直系尊属から20歳以上の子・孫への贈与で適用される税率です。一般税率は特例税率でない場合に適用されます。

(注)「20歳」とあるのは、令和4年4月1日以後の贈与については「18歳」となります。

【一般贈与財産用】(一般税率)

基礎控除後の課税価格200万円以下300万円以下400万円以下600万円以下1,000万円以下1,500万円以下3,000万円以下3,000万円
税 率10%15%20%30%40%45%50%55%
控除額10万円25万円65万円125万円175万円250万円400万円

【特例贈与財産用】(特例税率)

基礎控除後の課税価格200万円以下400万円以下600万円以下1,000万円以下1,500万円以下3,000万円以下4,500万円以下4,500万円
税 率10%15%20%30%40%45%50%55%
控除額10万円30万円90万円190万円265万円415万円640万円

国税庁HPより

令和4年度税制改正大綱

「暦年贈与が廃止される」という噂の根拠は、令和4年度税制改正大綱にあります。これは毎年出される、税の法律改正のたたき台のようなものです。

実は、令和4年度税制改正大綱では、相続・贈与の一体化に関する具体的な話は出ていません。相続税・贈与税については昨年度と同じ記述がなされています。

それではまず、令和4年度税制改正大綱の原文をそのまま掲載します。

高齢化等に伴い、高齢世代に資産が偏在するとともに、相続による資産の世代間移転の時期がより高齢期にシフトしており、結果として若年世代への資産移転が進みにくい状況にある。
高齢世代が保有する資産がより早いタイミングで若年世代に移転することになれば、その有効活用を通じた経済の活性化が期待される。
一方、相続税・贈与税は、税制が資産の再分配機能を果たす上で重要な役割を担っている。高齢世代の資産が、適切な負担を伴うことなく世代を超えて引き継がれることとなれば、格差の固定化につながりかねない。
このため、資産の再分配機能の確保を図りつつ、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築していくことが重要である。
わが国では、相続税と贈与税が別個の税体系として存在しており、贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から高い税率が設定されている。このため、将来の相続財産が比較的少ない層にとっては、生前贈与に対し抑制的に働いている面がある一方で、相当に高額な相続財産を有する層にとっては、財産の分割贈与を通じて相続税の累進負担を回避しながら多額の財産を移転することが可能となっている。
今後、諸外国の制度も参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。
あわせて、経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は、限度額の範囲内では、家族内における資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度となっていることから、そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく必要がある。

令和4年度税制改正大綱

このままではわかりにくいため、もう少し詳しく見ていきましょう。

高齢化等に伴い、高齢世代に資産が偏在するとともに、相続による資産の世代間移転の時期がより高齢期にシフトしており、結果として若年世代への資産移転が進みにくい状況にある。
高齢世代が保有する資産がより早いタイミングで若年世代に移転することになれば、その有効活用を通じた経済の活性化が期待される。

令和4年度税制改正大綱

日本では高齢化に伴って資産が高齢者に偏ってしまっている。それが貯金などで保管されているため、お金が若者世代に流れていかない。これが問題点であって、より資金の移動を加速させ経済を活性化させる必要がある。

一方、相続税・贈与税は、税制が資産の再分配機能を果たす上で重要な役割を担っている。高齢世代の資産が、適切な負担を伴うことなく世代を超えて引き継がれることとなれば、格差の固定化につながりかねない。
このため、資産の再分配機能の確保を図りつつ、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築していくことが重要である。

令和4年度税制改正大綱

とは言っても、相続税・贈与税は資金の移動のために重要な役割を担っている。相続税・贈与税がなければ、お金持ちはお金持ちのままで、経済格差は埋まらない。

そのため、相続税・贈与税の機能は維持しつつも、経済を活性化させるための税制が必要である。

わが国では、相続税と贈与税が別個の税体系として存在しており、贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から高い税率が設定されている。このため、将来の相続財産が比較的少ない層にとっては、生前贈与に対し抑制的に働いている面がある一方で、相当に高額な相続財産を有する層にとっては、財産の分割贈与を通じて相続税の累進負担を回避しながら多額の財産を移転することが可能となっている。

令和4年度税制改正大綱

日本では、相続税と贈与税は別々の体系で存在しており、贈与税のほうが高い税率となっている。

このため、相続税がかからない、もしくはかかっても少額の世帯では、贈与税を払うのがもったいないと生前贈与をしない判断になっている。

しかし、将来多額の相続税がかかるであろう層には、生前贈与によって少額で贈与することで非常に大きな節税効果を得ることができている。 

今後、諸外国の制度も参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。
あわせて、経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は、限度額の範囲内では、家族内における資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度となっていることから、そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく必要がある。

令和4年度税制改正大綱

今後、外国の制度も参考にしながら、相続税と贈与税を一体的に捉える観点も踏まえ、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直す。

また経済格差の固定化をなくし、お金持ちとそうでない家庭に中立である税制の構築について、検討を進めていく。

令和4年度税制改正大綱で言っていることが伝わったでしょうか?しかし、相続税と贈与税の税制改正について具体的に示されていないのが実情です。

生前贈与は非常に多くの国民が利用する制度であることから、急に制度を変更すると反発を招く可能性があります。したがって、時間をかけて段階的に制度を改正していくとも見られています。

具体的に何が変わるのか?

暦年贈与 廃止

さて、ひとまず令和4年税制改正大綱では暦年贈与の廃止について、具体的な内容が示されていないとわかりました。

しかし変更されると言われている内容もあります。それでは見ていきましょう。

相続税の持ち戻し期間の延長?

この「持ち戻し期間」とは、いわゆる「生前贈与の3年加算のルール」についてです。これは、生前贈与を行っても、贈与者が亡くなる前の3年間に贈与したものは相続財産として相続税の計算に含めるというものです。

このルールは、相続の開始直前に駆け込みで生前贈与を行い、相続税を節約するのを抑えるために設けられています。

日本では、この持ち戻し期間は3年と定められていますが、実は諸外国に比べると短いのです。

  • イギリス:7年
  • ドイツ:10年
  • フランス:15年

またアメリカの税制では「統一移転税額控除」という非課税枠が存在し、生前贈与でも相続でも、その非課税枠を超えた分にのみ、課税される仕組みとなっています。

つまりアメリカでは財産の持ち戻し期間はないという扱いです。したがって、財産をいつ移動しても同じになります。

上述したように、日本の持ち戻し期間は3年と外国に比べて短いです。これは令和4年度税制改正大綱でも指摘されています。 今後、5年や10年などに変更される可能性は十分あるでしょう。

参考:内閣府 税制調査会

まとめ

この記事では、暦年贈与の廃止の可能性について説明しました。すぐに制度が変わるわけではありませんが、今後のことを考えると心配に感じる方もいるでしょう。

生前贈与についてお考えの方は先送りにせず、あらかじめ計画を立て早めに実行することをおすすめします。

また生前贈与を検討する際は、相続税と贈与税でどちらが金額が小さくなるか試算しておくことが重要です。贈与税の税率は相続税より高く設定されているので、金額によっては生前贈与のほうが税金がかかる場合もあります。

また相続対策として遺言書を作成したい人もいるでしょう。その場合、形式の不備等を防ぐためにも行政書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

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