相続放棄手続きを自分でする方法|書類の準備から手続き内容、費用、期間など。相続放棄が認められない場合は?
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親が多額の借金を残して亡くなったときでも、子がすべての財産を放棄することで借金を背負わずに自身の生活を維持できる制度が「相続放棄」です。
この記事では、自分で相続放棄の手続きすることを前提に、財産の内容をどのように確認するのか、相続放棄する判断基準や書類の準備、家庭裁判所での手続き、相続放棄後にすることなどについて、順を追ってご紹介します。
被相続人に借金や未払い金はないか、知らないうちに保証人になっていないかなど、しっかりと調べる必要があります。自分で調べられない・不安があるといったときには、専門家に依頼しましょう。
この記事の監修者
司法書士・行政書士 谷村事務所
谷村和夫
目次
相続放棄とは
財産というと、預貯金や家屋などプラスの財産を思い浮かべるかもしれませんが、相続では、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続しなければなりません。プラスの財産とマイナスの財産はそれぞれ下記のようなものが挙げられます。
プラスの財産
- 現金・預貯金
- 土地・家屋
- 知的財産
- 株式
- 貴金属・絵画骨董品 など
マイナスの財産
- 借入金
- 未払い金
- 各種税金 など
では、被相続人(亡くなった人・故人)の財産に多額の借金など、負債や債務があった場合、相続人はそれらの借金などをすべて相続しなければならないのでしょうか。
このようなときに検討すべき制度のひとつが「相続放棄」です。相続放棄を選択することで、プラスの財産も相続できなくなりますが、借金などマイナスの財産を相続しないで済みます。
また、相続放棄では、被相続人の「立場」も放棄することが可能です。具体的にいうと、「借金の保証人になっている」「損害賠償を請求されている」といったことを指します。例えば借金の保証人の場合、現在まで順調に債務者が返済しているとしても、今後どうなるかわかりません。保証人になっている借金の額によっては、相続放棄を検討すべき状況だといえます。
相続放棄のメリット
相続放棄のメリットは、先述の通り、借金や未払い金、税金(滞納を含む)といったマイナスの財産の支払い義務がなくなること、保証人や訴訟の被告といった立場を引き継がなくていいことです。また、被相続人が事業を行っていて、買掛金などそれに関連するマイナスの財産がある場合も放棄できます。
相続放棄のデメリット
相続放棄は、メリットばかりではありません。相続放棄をしてしまうと、プラスの財産も一切、相続することができないため、現在の住居が被相続人名義である場合には、住まいを失うことになります。また、相続放棄が認められると、その後、被相続人にマイナスの財産を大幅に上回るプラスの財産があることがわかったとしても、撤回することはできません。
そのため、相続放棄を選択する前には、十分な調査を行うようにしてください。
相続人と包括受遺者
相続放棄の手続きについてご説明する前に、「遺産を引き継ぐ人」についてご説明します。相続人は、主に被相続人の配偶者や子など、夫や妻、親が亡くなったことで、何もしなくても相続が発生し、被相続人の財産を引き継ぐ人たちです。これとは別に「遺言」によって、財産を贈与することを「遺贈」といい、遺言によって財産を引き継ぐ人を「受遺者」といいます。
受遺者は、遺言の内容によって
- 特定受遺者
- 包括受遺者
の2つがあります。
特定受遺者
「特定受遺者」は、遺言に「○○の絵を遺贈する」など、特定の財産を指定して遺贈された人で、それ以外の財産について権利や義務は発生しません。
これに対し、「包括受遺者」は、「財産の3分の1を遺贈する」というように、財産の割合を指定して遺贈される人です。そのため、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産についても相続人と同様に義務が発生します。また、相続人と同様、財産を遺言通りに引き継ぐ「単純承認」以外に、「遺贈の放棄(相続放棄)」や「限定承認」を選択できます。
限定承認の概要については後述します。遺贈の放棄の手続き方法についても、相続放棄の方法とほぼ同じです。
相続人と包括受遺者の違い
共通点の多い相続人と包括受遺者ですが、次のように異なる点もあります。
- 包括受遺者に遺留分はない
- 包括遺贈に特別受益や寄与の規定は適用されない
遺留分とは、例えば「すべてを長男に」と遺言にあったとしても、そのほかの相続人(被相続人の兄弟姉妹を除く)に保証される相続財産の割合のことをいいます。そのため、遺言に同意できないときには、相続人は、保証される割合の相続財産を請求可能です。
また、特別受益は、被相続人が生存していたときに、ある相続人だけが生前贈与を受けていたような場合にその分を相続財産から差し引いて平等に分けることをいいます。反対に、ある相続人が被相続人の財産の維持などに貢献していた場合に、その分多く貰える権利が寄与です。具体的には、被相続人の事業を無償で手伝っていたようなケースがこれにあたります。
相続放棄の手順
【手順1】相続が発生したらまず被相続人の財産を確認する
可能であれば、被相続人が生きているうちに、すべての財産について確認しておきましょう。家族が亡くなって、気落ちしているときに、故人の書類や持ち物を調べる気持ちになれない方もいるかもしれません。しかし、相続放棄の手続きには期限があります。
また、家族が亡くなると、通夜・葬儀だけでなく、その後の法要や手続きなどで忙しく、思っている以上に早く時間が過ぎてしまうものです。後になって後悔をしないためにも、優先して確認作業を始めてください。
先に述べた通り、「財産」とは、プラスのものだけではありません。借金や未払い金はないか、知らないうちに保証人になっていないかなど、しっかりと調べる必要があります。個人で調べることができない・不安があるといったときには、専門家に依頼することも可能です。
借金の確認方法
被相続人のなかには、家族にも内緒で借金をしているケースがあります。そのようなときには、次のような方法で確認できます。
- 督促状の通知を確認
- 借用書や金銭消費貸借契約書を確認
- 口座の引き落とし、振り込み記録を確認
督促状は、クレジットカード会社や消費者金融に債務(借金)がある場合に、返済が滞ると郵送されるため、亡くなってからしばらくして届く可能性もあります。ただし、個人間の借り入れに関しては、借用書など書面にされていないことも多く、すべてを把握するのは難しいでしょう。借りた相手から催促されてはじめてわかることもありますので、注意が必要です。
「金銭消費貸借契約書」は、債権者(お金を貸した人)、債務者(お金を借りた人)に加え、保証人も所有しています。ですから、金銭消費貸借契約書を確認することで、保証人になっているかどうか知ることも可能です。
気をつけるべき財産
財産のなかには、財産がプラスであるか、マイナスであるかを算定するうえで、注意が必要なものがあります。
- 土地・家屋などの不動産
- 貴金属・書画骨董などの価値がわかりにくいもの
- 名義預金
土地などの不動産は、実勢価格(実際に売買される価格)がわかりにくく、管理に手間や費用もかかるなど、相続放棄の判断は難しいことがあります。貴金属や書画骨董も、個人では価値がわかりにくいものがほとんどです。
名義預金とは、「妻名義の通帳に夫の収入で預金した」というようなケースをいいます。これは、夫が被相続人の場合、相続財産に含まれますが、名義預金かどうかの判断が難しいので気をつけるべき財産のひとつです。
相続財産に含まれないもの
被相続人の死亡によって支払われるお金は、相続財産に含まれません。
具体的には次のようなお金が該当します。
- 死亡保険金
- 死亡退職金
- 遺族年金
- 未支給の年金
未支給の年金とは、被相続人に支払われる予定だった年金のことです。年金は2ヵ月に1度支給されますが、例えば、4月・5月の分を6月に支給するという仕組みのため、年金を受給している方が5月末に亡くなると、6月に支給される予定だった年金を未支給の年金として受け取れます。
ただし、受け取る権利があるのは、被相続人と生計を同じくしていた人です。これらのお金は、「受取人固有の財産」とされるので、相続財産には含まれず、したがって、相続放棄をするかどうかの判断をする計算に含める必要もありません。
相続放棄を選択した方が良いケース
財産などを精査した結果、下記に該当する場合には、相続放棄を選択した方がいいケースであるといえます。
- マイナスの財産の方がプラスの財産よりも多い(債務超過)
- 被相続人が借金の保証人になっている
- 被相続人が損害賠償請求を受けていたり、訴訟の被告になっている
- 相続自体に関わりたくない
相続人や包括受遺者の中には、相続をすることによって争いになることを避けたい方や、長い時間をとられることを嫌う方もいるでしょう。そのような場合にも、相続放棄の手続きをおこなうことによって、「遺産分割協議」などが必要になっても、関わらずに済みます。
複数の相続人がいる場合に、遺産が現金だけであれば、簡単に分けることができますが、土地・建物など分割が難しいものもあります。また、人によって相続したい遺産、したくない遺産があることも。このようなときに、遺産分割協議(どのように分けるかの話し合い)をおこない「遺産分割協議書」として書面にまとめます。
相続放棄以外の選択肢
相続には、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの選択肢があります。まず、「単純承認」は、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続することです。なお、相続人は相続放棄をおこなったつもりであっても、次のような場合には、単純承認したと認められます。
- 相続放棄の期限内(3ヵ月以内)に「限定承認」または「相続放棄」の手続きをおこなわなかった
- 期限内に被相続人の財産を処分した
- 相続財産を隠匿した
注意したいのは「期限内に被相続人の財産を処分した」です。例えば、相続放棄を検討しているときに、被相続人の預貯金を使ってしまうと、単純承認をしたと認定され、相続放棄の手続きをしても、却下されてしまいます。
次に、「限定承認」とは、マイナスの財産がプラスの財産より多い場合に、プラスの財産の範囲で、マイナスの財産を相続することです。
例えば、住んでいる土地・家屋が被相続人名義である場合には、相続放棄をしてしまうと住むところまで失いますが、限定承認であれば住み続けることができます(土地・家屋の価格分は債務の返済が必要)。なお、相続放棄は各相続人が単独でできますが、限定承認には「相続人全員で申し立てる」など、相続放棄の手続きとは異なる点があるので、注意が必要です。
【手順2】戸籍謄本な必要など書類を用意する
相続放棄には、被相続人と相続人の戸籍謄本や住民票が必要になります。被相続人の住民票は被相続人の最後の住所地、戸籍は本籍地の役所で入手できます。
被相続人の最後の住所地や本籍地が遠方の場合には、郵送で請求することも可能です。手数料の支払い方法など詳しくは、各役所にご確認ください。
郵送での請求では、書類が用意できるまでに時間がかかります。また、被相続人との関係によっては、多くの書類を揃えることが必要です。余裕をもって請求するようにしましょう。
必要な書類は、被相続人と相続人の関係によって異なります。ただし、重複する書類は、すでに先に相続放棄している先順位の相続人が提出していれば必要ありません。それぞれが必要な書類を被相続人との関係ごとにご紹介します。
配偶者の場合
被相続人に配偶者がいる場合には、必ず相続人になります。配偶者が相続放棄するときに必要な戸籍関係の書類は以下です。
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 配偶者の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
住民票除票とは、亡くなった人や転出済みの人の住民票のことです。
被相続人の子またはその代襲相続人(孫など)の場合
被相続人に子がいる場合には、相続順位第一位になります。被相続人の子または代襲相続人が相続放棄するときに必要な戸籍関係の書類は以下です。
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 子または孫などの戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
相続放棄するのが代襲相続人の場合には、さらに
- 死亡した子など(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍謄本
が必要になります。
代襲相続とは、相続人がすでに亡くなっている場合に、その子(子もなくなっている場合には孫)が代わりに相続することです。代襲相続をする人を代襲相続人といいます。
被相続人の父母・祖父母(直系尊属)の場合
被相続人の子が相続放棄をすると、相続順位第二位の被相続人の父母(祖父母)が相続人になります。相続放棄をする場合に必要な書類は以下です。
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 父母(祖父母)の戸籍謄本
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
また、被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している人がいる場合は次の書類も必要です。
- 死亡した被相続人の子およびその代襲者の出生から死亡まで連続した戸籍謄本
さらに、被相続人の直系尊属に死亡している人がいる場合、下記書類が必要です。
- 死亡した直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本
直系尊属とは、被相続人の父母や祖父母のことをいいます。父母がすでに亡くなっている場合には、祖父母が相続人となります。
「 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本」は、被相続人が結婚などで新しく戸籍を作ったり、本籍地を変えたりしているとき、それらすべての戸籍謄本が必要という意味になります。被相続人によっては、この数が多く、集めるのが大変です。
被相続人の兄弟姉妹またはその代襲相続人(甥・姪)の場合
被相続人の父母が相続放棄をすると、相続順位第三位の被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。相続放棄をする場合に必要な書類は以下です。
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 兄弟姉妹の戸籍謄本
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本
また、被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している人がいる場合は下記の書類が必要です。
- 死亡した被相続人の子(およびその代襲者の出生から死亡まで連続した戸籍謄本
相続放棄するのが代襲相続人の場合には、さらに
- 本来の相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
も必要になります。
【手順3】相続放棄申述書の入手と記入をする
相続放棄を家庭裁判所に申し出ることを「相続放棄の申述」といい、「相続放棄申述書」を提出します。また、相続放棄を申し出る人(申述人)は相続人です。
相続放棄申述書は、最寄りの家庭裁判所のほか、裁判所のHPからダウンロードすることもできます。
相続放棄申述書の書き方
相続放棄申述書の書き方について、記入例を参考にご説明します。
①提出する家庭裁判所・作成年月日を記入し、署名をします。
印鑑は実印でなくても大丈夫ですが、相続放棄をした証明書(相続放棄申述受理証明書)の発行手続きなどで同じ印鑑を使う必要があるので、使用した印鑑を忘れないようにしましょう。
②添付する戸籍関係の書類をチェックまたは、記入します。
申述人と被相続人の関係によって必要な書類は異なりますので注意してください。
③申述人と被相続人の本籍地・住所・氏名などの必要事項を記入します。
④申述の理由の欄には、相続の開始を知った日や放棄する理由を記入します。
相続放棄の理由によって、相続放棄が却下されることはほとんどありませんので、本当の理由を書いてください。財産の概略は、わかっている範囲でだいたいの金額を記入します。1円単位まで正確に書く必要はありません。
財産目録について
被相続人の財産については、「相続放棄申述書」の相続財産の概略欄に大まかな金額を書くだけです。相続放棄の手続きでは、財産目録を添付する必要はありません。
相続人が20歳未満の場合
例えば、父親が亡くなり、母親と20未満の子が相続人となった場合には、法定代理人である母親が相続放棄の手続きをすることができます。ただし、子だけが相続放棄をする場合は特別代理人の選任が必要です。
【手順4】相続放棄にかかる費用を用意する
相続放棄に必要な費用は次の通りです。
相続放棄に必要な費用
- 収入印紙800円分
- 郵便切手(管轄の家庭裁判所によって金額は異なる)
収入印紙は、相続放棄申述書の所定の場所に貼ります。郵便切手は連絡用に必要なものですが、必要な切手の種類・数は手続きをする家庭裁判所によって異なるので、直接確認してください。
【手順5】相続放棄を家庭裁判所に申し出る
必要書類と相続放棄申述書が揃ったら、家庭裁判所に提出して相続放棄を申し出ます。提出の際には次のことに注意してください。
相続放棄を申し出る家庭裁判所について
申し出る家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。相続人の住所地の最寄りの家庭裁判所や任意の家庭裁判所に申し出ることはできません。
相続放棄申述書の郵送での提出について
被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所が遠い場合には、郵送で提出することが可能です。ただし、面談のために呼び出されることもあります。そのときには、管轄の家庭裁判所まで出向かなくてはなりません。
また、窓口での提出では、その場で書類の不備なども教えてくれますが、郵送ではそれがないので相続放棄申述書や添付書類にミスがないようにしましょう。
【手順6】相続放棄に関する照会書を受け取る
家庭裁判所に相続放棄を申し出ると、数日から2週間ほどで「照会書」という書類が届きます。この書類は、本人の意思で相続放棄したのか、という確認のほか、必要に応じて申述人に質問をするものです。必要事項を記入したら、指定された期日までに返送してください。
照会書で質問するのでは十分でないと判断されたときには、面談が設けられます。その場合には、管轄の家庭裁判所まで出向く必要があります。被相続人の住所地が遠く、自分で出向くのが難しい人もいるでしょう。そのようなときは、弁護士に依頼すると、書類の作成だけでなく、面談の対応も代わりにしてもらえます。
【手順7】相続放棄申述受理通知書を受け取る
管轄の家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届いたら手続きは完了です。再発行はできませんので、なくさないようにしてください。状況によっては、照会書が省略され、相続放棄申述受理通知書だけが届きます。
申請から完了までの目安
状況によって変わりますが、質問事項照会書を返送してから申述の受理までは、3、4日です。単純なケースであれば、管轄の裁判所に書類を提出してから1週間ほどで相続放棄が完了するでしょう。
相続放棄後に発生すること
相続放棄の手続きが完了しても、それで終わりとはいきません。トラブルを避けるためにしなければならないことや法律上、発生する義務もあります。
次の順位の相続人に相続放棄をしたことを伝える
決まりがあるわけではありませんが、あなたが被相続人の借金を放棄することで、次順位の人が相続人になってしまうわけです。可能であれば手続き前から相続放棄の予定であることを伝えておき、手続きが完了したら改めて連絡しましょう。
多くの場合、次順位の相続人は、普段お付き合いのある親戚の方です。相続放棄が人間関係のトラブルにつながらないように注意しましょう。
財産管理の義務
相続放棄をするケースでも、マイナスの財産のみとは限らないでしょう。プラスの財産があるときには、相続放棄をしても「次の相続人が管理できるようになるまで」財産管理の義務があります。
例えば空き家であれば、近隣の迷惑にならないように庭の手入れをしたり、ガスや水道の管理をしたりということが必要です。もし、管理義務がある財産が原因で、誰かに怪我をさせるなどの損害を与えた場合には、賠償責任もあることを忘れないようにしましょう。
相続放棄申述受理証明書の発行の仕方
「相続放棄申述受理証明書」は、相続人が相続放棄をおこなったことを証明してくれる書類です。相続放棄が完了したことを知らせる「相続放棄申述受理通知書」の提示で認められることも多いですが、次のようなときに必要になります。
相続放棄申述受理証明書が求められるケース
- 被相続人の銀行口座の解約など
- 土地・建物の名義変更など
相続放棄申述受理証明書も交付の申請をするのは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
申請には以下のものを提出します。
相続放棄申述受理証明書の交付に必要な書類
- 相続放棄申述受理証明書交付申請書
- 相続放棄申述受理通知書のコピー
- 証明書1通につき150円の収入印紙
- 身分証明書
- 被相続人とのつながりの分かる戸籍謄本など(相続放棄したときと住所・氏名が異なる場合)
「相続放棄申述受理証明書交付申請書」は、相続放棄申述受理通知書に同封されているものをコピーして使用できます。相続放棄申述受理証明書の発行枚数に制限はありません。また、住所氏名を記入した返信用封筒と切手を同封すれば、郵送での申請も可能です。
相続放棄の手続きが可能な期間
相続放棄の手続きが可能な期間は、「相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内」です。この期間を「熟慮期間」といいます。相続が発生してからですので、例えば相続順位第2位の方は、第1位の方が相続放棄するまで手続きをすることはできません。
被相続人と疎遠になっているような場合で、時間が経ってから亡くなったことを知ったようなケースでは、「死亡を知ったときから3ヵ月以内」となります。
期限の延長をしたい場合
期限を延長したいときには「相続放棄の期間の伸長」という手続きを相続放棄の手続きをするのと同じ家庭裁判所におこないます。相続人が複数いる場合には、相続人中の1人について期間伸長が認められたとしても、ほかの共同相続人の熟慮期間には影響しません。したがって、相続人全員が熟慮期間の伸長を希望する場合は、各々の相続人が個別に申立てを行う必要があります。
必要な書類は、下記の通りです。
相続放棄の期間の伸長手続きに必要な書類
- 家事審判申立書
- 収入印紙800円分
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 伸長手続きをする人の戸籍謄本
- その他、申立人と被相続人の関係によって必要な書類(相続放棄申述申立てに必要な書類と同様)
「家事審判申立書」は、事件名に「相続放棄の期間の伸長」、それ以外の必要事項を記入し、収入印紙を所定の位置に貼ります。この手続きをすると延長されますが、さらに延長したい場合は、延長期限内に同じ手続きをしてください。
「家事審判申立書」は裁判所のHPからダウンロードできます。
家事審判申立書記入例(期間伸長)出典:裁判所相続放棄の期限を過ぎてしまった場合
期限を過ぎてしまったときは、期限内に相続放棄の手続きができなかった理由とそれを証明する資料などの提出が必要になります。手続きが複雑になるため、専門家に相談したほうが良いでしょう。ただし、専門家に依頼しても、相続放棄が認められないこともあります。
相続放棄できないケース
相続放棄が認められない理由として、「すでに単純承認している」と判断されてしまうことが挙げられます。特に気をつけたいのが単純承認のところでもご説明しましたが、相続放棄前に被相続人の財産を処分してしまうケースです。具体的には次のような行為が該当します。
- 預貯金の解約・払戻の手続き
- 被相続人の現金を使用する
- 財産を譲渡する
- 家屋の取り壊し
ルールを知らなかった、というのは理由になりませんので、注意してください。どうしても必要があるけれども、単純承認になってしまうかどうかわからないという支払いなどは一旦保留し、専門家に相談するのがいいでしょう。
被相続人の財産を使用しても単純承認の例外として、相続放棄が認められるもの
被相続人の預貯金から支払っても、例外的に単純承認したとはされないものあります。
原則として単純相続とみなされないもの
- 写真など資産価値がないものの形見分け
- 葬儀費用の支払い
- 治療費の支払い
- お墓などの購入 など
上記のような譲渡や支払いは一般的には単純承認したことにはなりません。
*状況によって異なる場合もありますので、詳しくは専門家に確認しましょう。
相続放棄の手続きを専門家に依頼した方が良いケース
相続放棄の手続きは難しいものではありませんので、相続人自身で十分手続き可能です。しかし、次のような方は、早めに専門家に相談・依頼をした方が良いでしょう。
- 時間がなく期限内に手続きできそうにない
- 被相続人の最後の住所地が遠い
- 被相続人の財産が調べられない
- 財産の中に不動産など価値の判断が難しいものがある
- 必要な戸籍関係の書類が多い
- 被相続人と疎遠で近況がわからない
上記のような場合には、司法書士や弁護士に依頼ができます。費用の相場としては、司法書士が4~7万円、弁護士が5~15万円です。司法書士と弁護士では対応可能な範囲が異なります。司法書士は書類の作成だけですが、弁護士には裁判所での面談なども代わりに対応してもらえます。
相続放棄の手続きに関してよくある疑問
相続放棄の手続きをするときによくある疑問とその答えをご紹介します。
Q:相続放棄をするのに特別な理由は必要ですか?
必要ありません。「被相続人の借金が多い」、「相続に関わりたくない」などの理由で相続放棄が可能です。
Q:相続放棄の手続きは専門家に依頼しないとできませんか?
相続放棄の手続きをご自身でおこなうことは可能です。
ただし、期限内に間に合わなかったり、書類を集めるのが難しかったり、何かしらの事情があるときには、早めに専門家に相談するのがいいでしょう。
Q:最寄りの家庭裁判所で手続きできますか?
相続放棄の手続きができるのは、「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」だけです。
Q:相続放棄はいつでもできますか?
相続放棄ができるのは、相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内です。
Q:相続放棄の期限の延長はできますか?
相続放棄の手続きをするのと同じ家庭裁判所に「相続放棄の期間の伸長」を申し立ててください。相当の理由があれば、延長されます。
Q:期限を過ぎてしまいました。もう、相続放棄はできませんか?
相当の理由があれば認められることもあります。しかし、その理由とそれを証明する資料などを用意したうえで、家庭裁判所に申し立てなければならないので、手続きが複雑です。まずは専門家に相談するのがいいでしょう。
Q:父に多額の借金があるので、確実に相続放棄したいです。父が生きているうちに手続きできますか?
相続放棄の手続きができるのは、「相続が発生したときから」です。相続が発生するとは、この場合、父親が亡くなったときになります。ですから、生前に相続放棄することはできません。
Q:相続放棄の手続きは、3ヵ月以内に「完了」しなければいけないのですか?
3ヵ月以内に相続放棄申述書を提出すれば大丈夫です。完了までは早ければ1週間程度ですが、ケースによって異なります。
まとめ
相続放棄をするための手続きは、相続人がご自身でおこなうことはできます。
ただし、相続放棄をおこなう前に財産を処分してしまったり、期限をすぎてしまったりすると受理されなくなるので、その点には注意が必要です。
身近な方が亡くなってすぐに相続のことを考えるのは難しいかもしれませんが、相続放棄をするかどうかの判断を含めて、早めに行動しましょう。
ご自身ですべてをおこなうのが無理だと感じたら、専門家に手続きの一部、またはすべてを依頼することも検討してください。
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