ペットのための遺言の書き方は?死因贈与契約や信託など、飼い主の相続準備

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本記事の内容は、原則、記事執筆日(2021年2月24日)時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。
ペットの相続、家族信託
ペットのための遺言の書き方は?死因贈与契約や信託など、飼い主の相続準備

自らの死後、犬や猫といったペットに遺産を残したいと思う方も多いでしょう。しかし、人間であれば相続人になったり遺言の内容にしたがって財産を受け取ったりすることが可能ですが、動物は相続人になることができません。

ペットに財産を残すためには、新しい飼い主などにペットのお世話をしてもらえるよう、遺言書で指定したり、あらかじめ贈与契約をしたりしておくことが必要です。

この記事では、ペットに財産を残すための遺言書の書き方に加え、死因贈与契約や信託など、飼い主が亡くなった後もペットが安心して暮らせるために財産を残す方法をご紹介します。

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この記事はこんな方におすすめ:
自分にもしものことがあった時に、ペットのことが心配な方

  • ペットに遺産は残せないが、ペットを世話してくれる人に財産を残すことは可能
  • ペットのために財産を残すには、遺言により負担付遺贈をおこなう方法もある
  • ペットのために財産を残すには、負担付死因贈与契約や負担付生前契約、信託もある

犬や猫などのペットに遺産は残せる?

ペットと相続

ペットフードの質の向上や医療の発達により、飼い犬や飼い猫の平均寿命は延びています。場合によっては20歳近くまで長生きすることもあり、特に定年退職後にペットを飼い始めたという人の中には、自分がペットより先に亡くなることに不安を感じる方も多いのではないでしょうか。

自分が亡くなった後は誰かが面倒をみてくれるだろうと思っていても、誰が飼うか親族間で押し付け合いになることもあります。さらに引き取り手がいないと、最悪の場合殺処分されてしまうこともあります。そのような事態にならないためには、ペットに新しい飼い主と財産を準備しておく必要があります。

それでは、ペットに財産を相続させることはできるのでしょうか。

ペットに直接財産を残すことはできない

特定の相手に遺産を残す方法として、遺言書の作成が挙げられます。しかし、いくら家族同然であっても動物であるペットは民法上「物(ぶつ)」として扱われます。財産を残せるのは人、または法人に対してのみのため、ペットに直接財産を残す旨を遺言書で指定することはできないのです。

ペットの世話をしてくれる人に遺贈することは可能

ペットに直接ではなく、ペットの世話をしてくれる人に遺贈する(遺言によって財産を譲り渡す)ことは可能です。そもそもペット自身が預貯金を使うことはできません。世話をしてくれる人に飼育費を遺贈し、ペットのために使ってもらうことができれば、被相続人(飼い主)の希望はかなえられるはずです。

なお、このように負担を引き受けてもらうことと引き換えに財産を残すことを「負担付遺贈」といいます。

ペットに遺産を残す方法

ペットに遺産を残す主な方法としては、次のようなものがあります。

  • 遺言で負担付遺贈をおこなう
    ペットの世話をしてもらうことと引き換えに、遺言者(飼い主)の死亡時に財産を譲り渡す旨を遺言で指定する
  • 負担付死因贈与契約
    ペットの世話をしてもらうことと引き換えに、贈与者(飼い主)の死亡時に財産を譲り渡す旨を契約で定める
  • 負担付生前贈与契約
    ペットの世話をしてもらうことと引き換えに、贈与者(飼い主)の生前に財産を譲り渡す旨を契約で定める
  • 信託
    ペットのための財産を相続財産から切り離し、新しい飼い主やNPOなどに託しておく

以下でそれぞれ詳しくご説明します。まずは遺言の作成手順や書き方を見ていきましょう。

ペットのための遺言(負担付遺贈)作成の手順

ペットの世話と引き換えに財産を残す場合、一方的に世話をしてもらう相手を指定しても遺贈を放棄されてしまう可能性があります。

また、口約束だけではトラブルになる可能性も否定できません。このため、事前準備をしたうえでの遺言作成が必要になります。

①世話をしてくれる人を決める

残されたペットのことを考えると、最も大切なのは世話をしてくれる人の選定です。

財産だけ受け取って、ペットの飼育を放棄するようなことがあってはいけません。このため、できるなら動物好きで無償でも世話を引き受けてくれるくらいの人を選ぶのがベストです。

また、高齢の方に引き取ってもらうと、その方に万が一のことがあった場合、再度別の飼い主の手に渡ることになるかもしれません。その際はペットがどのような状況に置かれるかわからないため、ペットの寿命も考えて最後までお世話をしてもらえる人を選びましょう。

②相手の了承を取る

ペットの世話には負担が生じるため、条件を提示して了承を取っておく必要があります。

例えば、毎日30分程度の散歩を朝夕2回おこなうこと、毎年1回健康診断を受けさせることなど飼育上の希望があれば伝えましょう。

また、生涯にかかる飼育費用は、犬で200万~300万円程度、猫で130万円程度と言われています。しかしこれは餌の種類や医療費のかけ方など、どのような世話をおこなうかで大きく差が出ます。

また、人間と同様にペットも歳をとるにつれて医療費がかかる傾向があります。現在は餌代くらいしかかからなくても、将来的には通院や入院費用がかさむ可能性があります。

負担付遺贈は「負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う」と民法第1002条第1項で定められています。

つまり、ペットの餌代や医療費の合計が遺贈された財産を超えた場合、受遺者はそれ以上ペットのための費用を負担しなくてもよいということなので、最悪の場合、飼育放棄につながることもあり得ます。

よって、生涯かかる餌代や医療費、供養代などを計算し、これらが不足することがないように遺贈する金額を設定しましょう。

③遺言執行者の指定をおこなう

ペットを引き取ってもらうのは飼い主が亡くなった後となるため、きちんと世話をしてくれているかを自分の目で確かめることはできません。財産だけもらってペットの世話を怠るようなことにならないよう、遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。

遺言執行者はペットを引き取ってくれた人がその義務を果たすかどうかチェックし、履行されないようであれば注意・勧告を与え、それでも改善しない場合は遺贈をなかったことにすることができます。

POINT
負担付遺贈

ペットの世話を条件に遺産の一部を提供するというのは、法律上「負担付遺贈」と言われています。

仮に遺言でペットの世話を頼まれたのに、その世話をきちんと果たしていない、という場合の対処の仕方としては、この「負担付遺贈」に係る遺言の取り消しという制度があります(民法1027条)。

遺言執行者は家族や友人などの親しい人に頼むこともできますが、行政書士や弁護士などの法律の専門家に依頼すると安心です。

④遺言書を作成する

①~③の準備が整ったら、遺言書を作成します。費用はかかりますが、公正証書遺言にすると紛失や改ざんの心配がなくなり、遺言の確実性が高くなります。

自筆証書遺言にする場合は、法務局における自筆証書遺言書保管制度の利用をおすすめします。紛失の恐れがなくなるうえ、相続開始後に裁判所での検認手続きが不要となります。

ペットのための遺言の書き方と文例

遺言書には、遺産分割方法の指定などのペット以外の内容に加えて、次のような文面を記載します。

ペット契約

ペットが自分より先に亡くなったときに備え、その場合は遺贈しないという予備的遺言を加えておくと良いでしょう。また、ペットの世話を引き受けてくれた人に対する感謝の気持ちを付言事項に書くこともおすすめします(付言事項に法的効力はありません)。

ペットの供養については、生前契約が可能なペット霊園も多くあります。経済的負担も大きいため、希望がある場合には事前に契約しておくと良いでしょう。

遺言書は、書き方に不備があると無効になってしまう可能性があります。不安な方は行政書士などの専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

家族にペットの世話を頼むときは

家族にペットの世話を依頼する場合には、付言事項に希望を書くのはいかがでしょうか。付言事項には法的効力はありませんが、故人の願いとして遺族の心に残ります。

家族に愛犬の世話を依頼する付言事項文例

愛犬コロにも感謝しています。退職後の運動不足の解消にとコロを飼い始めたところ、足腰が鍛えられただけでなく愛犬仲間もできました。家族にはこれからもコロを大事にし、世話をするよう希望します。コロが亡くなったときには手厚く埋葬、供養をしてください。

遺言書作成上の注意点

ペットと相続

飼い主が亡くなった後もペットが幸せに暮らしていけるかどうかは、引き取ってくれた人にかかっています。

遺言により不都合やトラブルが生じた場合、引き取ってくれた人がペットを快く世話してくれなくなってしまうこともありえます。このため、遺言を作成する際には、次の点に注意しましょう。

負担付遺贈により他の相続人の遺留分を侵害しないようにする

兄弟姉妹以外の法定相続人には、最低限遺産相続できる取り分(遺留分)があります。

遺言等により遺留分が侵害された場合には、侵害額を請求することが可能です。

ペットの世話と引き換えに遺贈する財産が他の相続人の遺留分を侵害した場合、遺留分をめぐって争いとなる可能性があります。

このため、ペットのためにできるだけ財産を残したいと思っても、引き取ってくれた人が相続トラブルに巻き込まれないよう他の相続人が少なくとも遺留分相当の財産を相続できるように遺言で指定するほうが良いでしょう。

相続税がかかる場合は見越した額を遺贈する

相続税は遺贈を受けた財産にもかかります。

相続税の税率は最大で55%で、さらに相続人以外が財産を受け取る場合には軽減措置がなく、かつ相続税は2割増しになります。約束していた金額が相続税の支払いにより目減りしてしまうと、望んでいた世話をしてもらえなくなる可能性もあります。

このため遺贈する金額は、相続税の負担額も見越したうえで決定する必要があります。

ペットの引き渡し方法を決めておく

遺言書に書いたからといって、ペットは自分自身で新しい飼い主の元に行くことはできません。

遺言書が読まれるのは葬儀の後となることも多いため、ペットの引き渡し方法については事前に決めておく必要があります。

特に、ペットの世話を引き受けてくれる人自身が自宅に入りペットを引き取ることができない場合、家族等の協力が欠かせません。

具体的に「どのタイミングで」「誰が」「どのように引き渡すのか」を決定しておきましょう。

引き渡してくれる人と世話を引き受けてくれる人の面識がない場合は、予行練習をかねて顔合わせしておくのもおすすめです。

また、いきなり違う環境に連れていかれるとペットはストレスを感じてしまいます。

生前から、世話を引き受けてくれる人に時々ペットを預けるなどして、前もって信頼関係を構築しておくことも大切です。

家にペットがいますカード

1人暮らしでペットを飼っている人は、病気や急病で病院に運ばれて亡くなったり意識が戻らない場合、家にいるペットの命にも関わります。

最悪の事態を防ぐためには、ペットの存在を他人に知らせる「家にペットがいますカード」を携帯することをおすすめします。

「家にペットがいますカード」は市販されている他に、インターネット上で無料のテンプレートを見つけることもできます。

ペットの写真を入れて自作するのも良いでしょう。

飼い主やペットの情報の他に、かかりつけの動物病院や緊急時に引き取ってくれる方の連絡先も忘れずに記載しましょう。

遺言以外でペットに財産を残す方法

遺言では、受け取る人の同意がなくても遺贈することができるため、放棄されてしまう可能性もあります。

このため、より確実にペットに財産を残すには遺言以外の選択肢を選ぶという手段もあります。

①負担付死因贈与契約

負担付死因贈与契約とは、受贈者が負担を引き受けてくれることと引き換えに、指定した財産を贈与者が死亡した時点で贈与する契約です。

現飼い主が独断で決められる遺贈と違い、贈与者(現飼い主)と受贈者(世話を引き受ける人)双方の明確な意思・合意によっておこなわれる契約行為となります。ペットの世話を引き受けることを同意の上で契約を結ぶため、一方的に破棄されることはなくなります。

負担付死因贈与契約書は次のように作成します。

負担付死因贈与契約書

ペット契約

死因贈与で受け取る財産には、遺贈と同様に相続税がかかります。

また、死因贈与により受贈者と贈与者の相続人との間にトラブルが生じることもあるため、契約を公正証書にしておくことをおすすめします。なお、ペットの飼育を放棄するようなら、その負担を履行しないという理由で贈与契約を解除をすることができる旨規定しておくのも一案です。

②負担付生前贈与

愛するペットとは1日も長く一緒に過ごしたいと考える方が多いと思います。しかし、飼い主が孤独死し発見が遅れると、ペットの命まで危険にさらされてしまいます。もしものことを考えると、生きている間にペットと財産を新しい飼い主に引き渡す検討も必要です。

ペットの世話と引き換えに生前贈与をおこなう際は、「負担付生前贈与契約」を交わします。

遺贈や死因贈与とは違い、契約により定められた時点から飼い主の生死に関わらず飼育義務が発生します。

このため、長期入院や介護施設等に入居する場合にも有効な方法となります。

生前贈与で注意したいのは贈与税です。

年間110万円の基礎控除額はありますが、それを超えると贈与税がかかります。例えば500万円を贈与した場合の贈与税は53万円となります。

遺産の総額や法定相続人の数などにより変わりますが、生前贈与の方が税金が高くなることも多いです。

③信託

ペットに財産を残す方法として、近年需要が高まっているのがペットのための信託です。

ペットのための信託とは、ペットのために残す財産を相続財産から生前に切り離して、新しい飼い主や団体に託し、飼い主が亡くなった場合だけでなく、施設に入居することになったり認知症になったりしてペットの世話ができなくなったときに、その財産から飼育費や医療費を支払う仕組みです。

新しい飼い主等が相続争いに巻き込まれることがないというメリットがあります。

ペットのための信託には、専門のNPO法人などに依頼する方法と、ペットのために飼い主が管理会社を設立する方法があります。

専門のNPO法人等に依頼する方法

ペットのための信託を扱っているNPO法人などに依頼する場合は、NPO法人が指定する信託会社と信託契約を結び、費用を預けます。

遺言書に財産をNPO法人に遺贈する旨を記載することで、飼い主が亡くなるとNPO法人に信託の権利が移ります。

NPO法人ではペットの新しい飼い主を探したり、老犬・老猫保護施設などに預け入れるなどしたうえで、信託会社と連携して飼育費の支払いや管理などをおこないます。

費用が高額となるものの、専門のNPO法人に依頼するため飼育費用や見守りの管理が徹底されます。

管理会社を設立する方法

飼い主自身が信託をおこなう場合は、まず財産を管理する会社を設立します。

飼い主自身が信託をおこなう場合は、まず財産を管理する会社を設立し、ペットに残す財産を相続財産から分離します。

次に、新しく飼い主になってくれる人との間でペットに必要な費用や謝礼等を決め、信託契約を結びます。

さらに信託監督人を設定し、新しい飼い主を受益者とする旨を遺言書に記載します。

負担付遺贈に比べると、会社設立や専門家への依頼などの費用がかかりハードルは高いですが、飼育状況や飼育費の管理を監督してもらえるというメリットがあります。

上記以外にも、家族や知人を受託者として信託契約を結ぶ方法もあります。

ペットのための信託はいずれも比較的新しい仕組みですので、利用の際はできる限り専門家に相談して決めることをおすすめします。

まとめ

自分が亡くなった後も愛するペットに幸せな生涯を送ってもらうには、事前の準備が必要です。

最後に、ペットのために財産を残す方法のポイントをまとめておきます。

  • ペット自身に遺産を直接残すことはできないが、ペットを世話してくれる人に財産を残すことは可能
  • ペットのために財産を残すには、遺言により負担付遺贈をおこなう方法がある
  • 負担付遺贈は受贈者が放棄することもできるため、遺言を作成する前に引き取り手(受贈者)の承諾を得ておく
  • ペットのために財産を残す方法には、負担付遺贈以外に、負担付死因贈与契約や負担付生前契約、信託もある

日々の暮らしに癒しをもたらしてくれるペットは、もはや家族の一員です。

自分にもしものことがあっても、健やかに天寿を全うしてほしいと願うのではないでしょうか。

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